5歳になる孫がわが家に泊まりに来たときのことです。寝る前にいつものように仰向けになって絵本を持って読み聞かせをしていたら、「ばあば、ここ、どうしたの?」と言います。絵本を持っている私の二の腕がぷるぷるしているのが気になったようです。いつの間にか腕の筋肉が落ちて、俗に言う振袖状態になっていたのでした。
母が元気だったころ、母の二の腕をさわって「どうしてこんなにふにゃふにゃなの?」と、よくからかったものです。母は「マキちゃんだってお母さんぐらいの年になれば、こうなるよ」と返してきました。「ほんまや!」という気分です。
私は孫に力こぶもできると自慢したら、「ばあば、すごいね!」と私の力こぶをさわって感心してくれました。
老いは静かにやってくるものですね。旅先で夫が撮影した私の写真を見て、「目のまわり、皺だらけだよ」と言います。スマホは便利です。画面を二本指でさわり私の顔のアップ写真を見たら、「これは私ではない!」と断言したくなるほど目のまわりがしわくちゃでした。笑うと、こんなにしわができて目が細くなるとは……。でも、「まだしっかり見えてるんだから大丈夫!」。そう思うと、しわくちゃでも笑顔でいようと思えます。
私の朗読・話し方講座には圧倒的に女性が多く、70代80代になるとご主人に先立たれた方も大勢います。先日新しく入っていらした70代の方もそうでした。長らくご主人の介護をして看取ったそうです。ところが、その先が違いました。年下のボーイフレンドができたというのです。しかも、毎日夕飯とお風呂は一緒だというではありませんか! 「えー!!!」と、みんなが目を丸くしたら、「違いますよ! 外食してそのまま銭湯に行き、もちろん別々に入りますよ」。なぜか気持ちが高揚し大笑いしました。老いは静かに忍び寄るけれど、素敵な出会いは突然やってくるのかもしれません。
数年前、自宅の近くを歩いていたら、背後から近づいてきた車の運転席の窓が開き「この近くにファミリーマートはありますか?」と若い男性に尋ねられました。私が説明しようとしたら、「あ、いいです」と言って走り去ってしまいました。「おばさんだった……」と落胆したのでしょう。でも、後ろ姿はなかなかイケてると思ったから声をかけてきたのかもしれません。そう考えると足取りも軽くなりました。
人生はたくさんの言い訳でできています。自分に優しい言い訳をすることによって、軽やかに生きられるのかもしれません。そんな言い訳で、静かにやってくる老いを追い払いましょう。