「理事長、クワガタは好きですか? たくさん卵を産んだのでよかったらお分けしますよ。」
「どんなクワガタ?」
「ニジイロクワガタです。大人気のクワガタですよ」
ネットで調べたら1匹1万円で取引されることもあると知り驚きました。私は虫が苦手です。ところが幼稚園に通う孫は虫が大好き。我が家の庭でダンゴムシを見つけたとき、目を輝かせて「可愛いねぇ」と言っていたことを思いだしました。きっと喜ぶだろうなぁと思って、いただくことにしました。
卵1個と幼虫4匹を譲りうけました。体長5ミリほどの白っぽい幼虫は、本当にクワガタになるのかしらと思うほど小さいものでした、飼育容器を5個用意し、それぞれに専用の土を入れ1匹ずつ土に埋め、ようすを見ながら霧吹きで水をやりました。さっそく遊びに来た孫は、幼虫を掌にのせじっと見つめて喜んでいました。
卵はやがて幼虫になりましたが、喜んだのもつかの間死んでしまいました、生育が遅れていたので、何らかの原因があったのでしょう。4匹の幼虫は土を食べてどんどん大きくなっています。夫が、飼育容器のあたりから変な音がすると言っていましたが、幼虫が鳴くわけはないから空耳じゃない?と、私はとりあいませんでした。しかし、ある夜これまで聞いたことのない音がするので不気味に思い廊下に出てみたら、なんと、飼育容器から聞こえてくるではありませんか! えー、なんで幼虫がこんな音を出すの!? 土を食べる音? 虫の神秘な世界に、夜中ひとりで感心しました。
YouTubeでクワガタの飼育を学び、数か月経ちました。幼虫はついに脱皮しサナギになりました。体も茶色くなり動かなくなりました。花を生ける時に使うスポンジを買ってきて寝床のようなものを作り、今はそこで静かに眠っています。残念ながら体の小さかった1匹は死んでしまいました。卵から成虫になるのは、なんと大変なことなのでしょう。学校の授業ではわからなかった命の営みの重さを実感しています。
それなのに……。私には苦い思い出があります。息子が小学生のころ、請われてカブトムシを買ってあげたことがあります。はじめのうちは喜んでいましたが、やがて世話もしなくなり餌をやり忘れ、カブトムシが死んでいることに気がつきました。こんなに大変な道のりを経て成虫になったのに餓死させてしまい、今さらながらごめんなさい。
無事にニジイロクワガタになってくれますように! 虫が苦手な私が、虫めづる姫君ならぬ“虫めづるばあば”になるとは! 孫のおかげで遅ればせながら理科の勉強中です。