4月28日、星野富弘さんが亡くなりました。78歳でした。20代のころ、勤め始めたばかりの中学校の体操部指導中に不慮の事故にあい、首から下が全く動かなくなってしまった富弘さん、口に筆をくわえベッドに横になったまま詩画を描き続け、多くの人に生きる喜びを与えてくれました。
昨年八王子市いちょうホールで七夕朗読会を行い、星野富弘さんの『愛、深き淵より。』を朗読させていただきました。集中して読んだ45分間、隣に星野さんが座って聴いてくださっているような感覚がしたのを覚えています。
私は連休明けに群馬県みどり市にある富弘美術館に行き、聖生(せいりゅう)清重館長にお話を伺うことができました。聖生館長は富弘さんと小中高と一緒だった幼なじみです。
「あんなことにならなければ、彼は中学校の校長として立派に務めを果たしたと思う。でも、寝たきりの生活になってしまったからこそ、みんなの心に響く優しい言葉や、美しい花の絵が生み出されたのです。本当に長い間がんばってくれましたよ」。
よく同級生で集まり食事をしながらおしゃべりしたそうです。星野さんは冗談を言い仲間を笑わせてくれました。ただ、汗腺が働かないために汗をかけず夏は辛かったそうです。
教会で行われた葬儀式の中継をオンラインで拝見し、私も一緒にお見送りしました。奥さまが「私たちに子どもはいませんが、富弘さんが描いた多くの作品が私たちの子どもです。子どもがいなくて寂しい?と聞いたら、だから絵をたくさん描いたんだよ。子どもに手を引かれて歩けるように……と言ってくれました」。この言葉を聞いて涙があふれました。
美術館に設けられた記帳所のノートには、「生きることに疲れていた時に星野さんの作品に出合い、命のある限り生きよう!と思いました」といった感謝の言葉がたくさん記されていました。奥さまだけではなく、多くの人の手を引いてくれる作品なのです。
星野さんの詩画はカレンダーや本、絵葉書などで販売されていますが、実物は販売していません。入院中に開いた最初の個展の作品は来場者に差し上げましたが、美術館にはそうした方から寄贈された作品もありました。今春の特別展のテーマは「山笑う」。山々の緑が一日ごとに深くなっていくようすを、富弘さんは電動車いすに乗って何十年もの間描き続けてきたのです。富弘さんは亡くなってしまいましたが、作品を通して私たちの心にいつまでも生き続けます。星野富弘さん、ありがとうございます。あなたに出会えて本当に良かった!