ある日の話し方教室でのことです。初めて受講した若い女性がマイクを手にしたとたん、たいへん緊張していることが伝わってきました。
緊張しているの?と、私がにこやかに尋ねたら、しばらく間を置いた後、「さようでございます!」という答えが返ってきました。思いがけない返答に吹き出してしまいました。言葉の体温が違いすぎて、そのギャップが面白かったのです。彼女も声をあげて笑い緊張がほぐれ、普段の言葉で話し始めました。この「ございます」という言葉には品格がありますね。会話の中で、さりげなく使いこなせる人は教養もあって素敵だなと思います。
以前、あるレセプションの進行台本を受け取り読んでいたら、「では、ご来賓の皆さまをご紹介させていただきます。内閣総理大臣、〇〇〇〇様でございます」と書いてありました。 ん? ございます? なんだか変だなぁと思い周りの人に聞いてみたら、丁寧な言い方で良いと思うという答えが返ってきました。でも、やはり抵抗があります。私はこのような使い方をしたことがありません。調べてみたら、「ございます」は自分について話すときに使う言葉であることがわかりました。ですから「内閣総理大臣、○○〇〇様でいらっしゃいます」。これが正しい言い方なのです。
コンサートやお芝居などに行くとよく耳にする場内アナウンス、「本日はご来場いただきまして、ありがとうございます」「本日はご来場くださいまして、ありがとうございます」。皆さまはどちらの言い方をなさいますか? どちらでもいいような気がしますが、じつは「ご来場くださいまして」が正しい日本語です。“主語はだれか”を考えてみるといいですよ。主語はお客様です。でも、「いただく」は自分の行為につけてへりくだったニュアンスを表す謙譲語ですから、この場合は「ご来場くださり」を使った方がいいですね。
女子栄養大学の『栄養と料理』初代編集長の故岸朝子さんは、テレビ番組で「おいしゅうございます」と、普通におっしゃっていました。「おいしいです」を丁寧に言うと「おいしゅうございます」になるのですね。私もよくニュース番組の冒頭で「お暑うございます」と挨拶していましたっけ。そうそう、「おはようございます」「ありがとうございます」は、皆さまもよく使いますよね。「ございます」という言葉は、使わないとどんどん離れて行ってしまうような気がします。丁寧な言葉を使うと、口調も穏やかになるような気がします。
今月もお読みいただいて……おっと失礼! お読みくださいましてありがとうございます。