猛暑にゲリラ豪雨、それにパリオリンピックで夜更かしした今年の夏、我が家ではちょっとした事件が起きました。ニジイロクワガタのニジコがいなくなったのです。ある日、帰宅したら玄関に置いてある飼育箱のふたが少しずれて開いていました。その日以来、ニジコは姿を現しません。心配になり新聞紙に飼育箱の土をあけてみたら、なんとニジコがいないではありませんか! 逃げたのです。
ニジコの捜索開始です。クワガタは隅の暗いところに入り込むとネットに書いてあります。乾燥が苦手なので、長くても1週間ぐらいしか生きられないとも。羽を広げれば飛べるだろうし、いったいどこにいるのか見当もつきませんでした。
ところが、オリンピックを自室のテレビで見ていた深夜、カリカリ、カリカリとかすかな音が聞こえてきました。クワガタの足はギザギザになっているので床の上を歩いている音です。昼間はほとんど動かず、夜になると活動を始めます。ニジコのSOSです。オリンピックどころではありません。部屋の隅々まで目を凝らして捜しましたが、見つかりませんでした。その夜はカリカリという足音が気になって眠れませんでした。まるで「早くここから出たいよー!」と言っているみたいでした。
翌朝、夫に報告し仕事に出かけました。帰宅すると、夫がどうやら音は下駄箱の中からしていると言うのです。飼育箱を玄関に置いているので下駄箱に入り込むことは可能性としては最も高いと思い、さっそく靴を全部出すことに。ニジコ救出作戦開始です。
ところが、下駄箱を空っぽにしたのにニジコの姿はありません。相変わらず下駄箱のなかでカリカリとニジコの歩く音がするのに。深夜、夫とふたりで頭を抱えこんでしまいました。一体ニジコはどこにいるのでしょうか・・・・・・?
玄関に這いつくばって下駄箱の下の方をよく見たら、ほんの数ミリの隙間があることを発見しました。ここだ! どうやらここから下駄箱の下の真っ暗な空間に迷い込んでしまったようです。夫が電動のこぎりを持ってきました。下駄箱の底の部分に穴をあけると言うのです。それは最後の手段だと言って、その夜は靴を戻して寝ることにしました。いなくなってから、すでに4,5日、命の期限が迫っています。
翌日、妙案を思いつきました。“命の紐(ひも)作戦”です。紐に餌を塗り付けて、数ミリの隙間からニジコのいるところに入れてみました。その夜は、男子体操の団体戦を放送していました。私は30分おきに玄関を監視しつつテレビを見ていました。紐を垂らしてもダメだろうなぁと半ば諦めていたら、あの隙間からニジコが顔を出していたのです!
テレビでは体操男子団体金メダルが決まった瞬間でした。失敗してもあきらめずに励ましあい、仲間を信じる姿に涙し、最高の金メダルだと感動しました。我が家では無事に帰還したニジコに、金メダル! 真夏の大冒険は下駄箱を壊さずに終了したのでした。