「だるまさんが どたっ」「ばななさんと ぽにん」「だるまさんの め」
これは、かがくいひろしさんの「だるまさんシリーズ」の絵本の一節です。 孫はこの本が大好きで、オノマトペ(擬声語)の部分で声をあげて笑います。愛嬌のあるだるまさんです。大人だって笑顔になってしまいます。作者に会ってみたいと、ずっと思っていました。
私が理事長を務めていた東京八王子市の財団が運営している「夢美術館」で、この秋「かがくいひろしの世界展」を開催するというので、私は美術館の一角で絵本を朗読したいと申し出ました。オノマトペの部分を観客一人ずつに言ってもらうと、それぞれ個性があっておもしろいからです。その時、かがくいさんはすでに亡くなっていたことを知り愕然としました。
1955年生まれ、重度の障がいのあるお子さんたちの教育に一生を捧げた方でした。言葉で意思の疎通ができない子どもにペンを持たせて紙に書く喜びを教えるなど、可能性を引き出すためにいろいろな試みをしました。試行錯誤の末、絵本を創ることにしたのです。50歳の時に応募した「おもちのきもち」で初めて講談社絵本新人賞を受賞しました。そこから「まくらのせんにん」や「だるまさん」シリーズなど自由な発想とユニークな絵でたくさんの絵本を世に出し、54歳ですい臓がんで亡くなってしまいました。
かがくいさんは、生前「ロバの音楽座」という楽団が大好きだったそうで、10月5日にロバの音楽座とコラボで朗読をすることになりました。打ち合わせで立川市にあるロバハウスに行って、びっくり! おとぎの国の洋館の中に、中世ルネサンスの古楽器など、見たこともない楽器がたくさんありました。ロバの音楽座の奏でる曲は素朴で温もりがあり、心にスーッと入ってきて癒してくれる不思議な力があります。リーダーの松本雅(が)隆(りゅう)さんはかがくいさんにお会いしたことはないそうですが、共通するものを感じるとおっしゃっていました。松本さんは、私が読む「だるまさんシリーズ」や「もくもくやかん」に音楽や効果音をつけてくれました。
当日は冷たい雨が降っていましたが、抽選で選ばれた皆さんがロバハウスにやってきました。酸素吸入器をつけているお子さんもいました。ぐずっている子も、私が「さあ、だるまさん、読むよ!」と言うと、たちまちおとなしくなります。子どもたちは特に「だるまさんが ぷっ」とおならをするところが大好き。ひときわ大きな笑い声がロバハウスに響きました。かがくいひろしさんの絵本には、みんなを笑顔にしてしまうすごいパワーが秘められているのです。創作年数はわずか4年ですが、素敵な絵本を残してくれました。ロバハウスの中にかがくいさんも来ていて、にっこり笑っているような気がしました。