「これがナマコの糞です」
え、どれどれ? 「この白っぽいうどんの切れ端のようなものがナマコの糞です。ナマコは砂を食べて栄養を吸収し、残った砂が糞になります。ナマコは砂地をきれいにしてくれるのです」。どちらが口なのかよくわかりませんが、こんな説明を受けるとなんだかナマコが愛おしくなりました。
私は東京動物園協会の評議員をしています。その視察で昨年11月に葛西臨海水族園に行ってきました。ご案内くださるのは葛西臨海水族園の錦織一臣さん。錦織館長はプレゼンテーションがとても上手です。水槽の中の生き物の糞は水に溶けてほとんど見ることができないけれど、ナマコの糞は見ることができると聞いて思わずスマホでパチリ!
「これが移動水族館です」。
駐車場の一角に水槽が組み込まれたトラックが停まっています。その名も「うみくる号」。2トン車に2つの水槽があり、片側はサンゴ礁に棲む色鮮やかな熱帯魚、もう一方の水槽には東京湾のアジなどが泳いでいます。
それまで大型のアクリル水槽の中を回遊する黒マグロや深海魚、熱帯魚などを観てきたので、移動水族館の水槽は小さくて物足りないなと思いました。が、水族園に来ることができない小児病棟や老人施設などを回っていると聞き、納得しました。
活動日は月に5回。お子さんたちは心待ちにしているそうです。「初めて生きている魚を観ました」「ありがとうございます。また来てください」。
反応のないお子さんもいます。でも、反応がなくても聞いているので話し続けるようにという職員のアドバイスで、いつものように説明していると担当者は言っていました。高齢者の施設に行ったとき、「昔、子どもや孫を連れて葛西臨海水族園に行ったことがある!」と、嬉しそうに話してくれた方もいたそうです。記憶を呼び覚ましてくれる働きもあるのですね。小さいけれど、大きな働きをしているのです。
普段見ることができないバックヤードもご案内いただきました。特に衝撃的だったのは、水の浄化施設。ゴーッという音のする中に大きな水槽がいくつも並んでいて太いパイプでつながっています。魚それぞれに適した水の環境を作るために、24時間365日休むことなく稼働し続けます。自然の海を人間が作り出すには、こんなに大掛かりな施設とエネルギーが必要なのですね。
水族館は、魚にとってストレスのない環境をつくり、観る人みんなを笑顔にするにはどうしたらよいかと考えることで、進化し続けるのだと感じました。2028年のリニューアルオープンが楽しみです。新しい年、皆さまもお近くの水族館に足を運んでみてください。