「先生、『ん』の発音が何種類もあるって本当ですか?」 先日話し方講座で、ある女性から質問されました。
ハテ・・・? 「ハンカチ」「タンバリン」。たしかに口を閉じて言うときと閉じないで言うときがあります。「新橋」駅と「神田」駅の「ン」も発音するときに口の形が違います。シンバシの「ン」は口を閉じて発音しますが、「カンダ」の「ン」は口を閉じないで発音しますね。2種類はあります。以前「新橋」駅のアルファベット表記は「Shinbashi」ではなく「Shimbashi」だと聞いたことがあります。調べてみたら「シンバシ」駅の「ン」は「m」なのです。同じように「ニホンバシ」の「ン」も「m」でした。新宿駅はどうかというと「Shinjuku」で「n」、神田駅も「Kanda」で「n」。今まで何気なく口にしていた「ん」には「M表記」と「N表記」があるのです。
これは、「ン」の次にどんな音がくるのかによって、口を閉じるかどうかが決まるようです。「口を閉じる」音は「M」で、うしろに「バ行」「パ行」「マ行」のくる言葉が多いようです。たとえば「さんぽ・えんぴつ・ほんばこ・さんま・タンバリン」などです。口を閉じない音は「N」という表記になり、うしろに「タ行」「ダ行」「ラ行」「ザ行」の言葉がきます。たとえば「はんたい・れんらく・こんざつ・サンタ・パンダ」などです。
アナウンサー試験には必須のガ行鼻音などの鼻に抜ける「ン」もあります。この「ン」は唇を閉じないで、舌の奥の方を上あごにつけて発音します。「まんが・おんがく・りんご・はんがく(半額)」などです。うしろに「カ行」「ガ行」がくるとこの発音になります。
「ん」には3種類の発音があるのです。日本語を生業(なりわい)にして45年もたつのに、今まで気にも留めなかったことに驚きをかくせません。あれ? この「カクセマセン」の「ン」という音は? 後ろに来る音がない場合は前の音に影響されるのかな? この前紙芝居で読んだ「アンパンマン」の「ン」の発音は……? 考えれば考えるほど悩みは深まります。一説には音声学的に6種類あるそうですよ。
ちなみにNHK日本語発音アクセント新辞典で「ん」から始まる言葉を調べたら「ンジャメナ」がありました。地名だそうです。沖縄県には「ん」で始まる言葉がたくさんあります。「ンム(さつまいも)」「ンナトゥー(港)」「ンニイ(稲)」「ンプシー(味噌)」「ンツァ(土)」「ンナカラ(からっぽ)」など。沖縄県の人としりとりをしたら終わらないかもしれませんね。「ん」って奥が深い音なのですね。