「ルビーよりも赤くすきとおり、リチウムよりもうつくしく酔ったようになって、その火は燃えているのでした」
「電気公社の前の六本のプラタナスの木などは、中にたくさんの豆電球がついて ほんとうにそこは人魚の都のように見えるのでした」
これは、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の中の一節です。幻想的な美しい表現ですが、想像するにはなかなか難しいものがあります。それを見事にビジュアル化したのが漫画家のますむらひろしさんと奥様の昭子さんです。『ますむらひろしの銀河鉄道の夜』は、星まつりの夜、少年ジョバンニとカンパネルラが乗り込んだ銀河鉄道の世界が、青色を基調とした美しい絵画となって表現されています。賢治の未完の作品、しかも難解な言葉で紡ぎだされた作品を漫画で描いたなんて! 作画はひろしさんが、彩色は昭子さんが担当したそうです。全4巻の後半が完成し、私が理事長を務めていた八王子市夢美術館で原画展を開催するにあたり、ご夫妻にインタビューすることになりました。
ますむらさんの描くジョバンニやカンパネルラはすべて猫。ご自宅に伺って納得。大きなお宅に猫が3匹。猫好きなのです。
お二人はそれぞれ別の部屋で仕事をしています。賢治の想いを形にするため、原作を何度も読み、考え悩んだそうです。ああでもない、こうでもないと、二人で長時間考え込んだり、互いの作品にダメ出ししたりすることも! お話をうかがっていくうちに、ご夫妻は最大のライバルであるとともに最強のコンビであると確信しました。光を放つ極細の繊細な白い線は、1本1本長さや細さが異なります。定規で描いたと思っていたら、昭子さんの手書きだと知り驚きました。本当に光っているのです。昭子さんから「あなたは線を描かないで。私に任せて!」と言われ、出来上がったものを見て、「おおーっ、神業だ!」と、ひろしさんは思ったそうです。互いに、相手が目を見張って驚き喜ぶ顔を見たくて仕事をしているのだと感じました。
「野原には、あっちにもこっちにも、燐光(りんこう)の三角標が美しく立っていたのです」ここでは、三角標をどう描いたらいいのか考え抜いたそうです。「おい、賢治、三角標はこれでいいかな?」と、天に向かって問いかけたとか……。汽車のなかで出会った、鷺を捕まえ押し葉にするという鳥捕り、そしてくちばしを揃えて少し平べったくなって並んだ鷺は、どんなふうに描かれているのか……? 私はうなりました。あっぱれ! ますむらさんも「賢治に褒めてほしい」と、笑いながらおっしゃいました。
最愛の妹を亡くした賢治が、妹を想って書いたと言われている『銀河鉄道の夜』、もう一度原作を読んでみようと思いました。