我が家が猫好きになったのは、夫の知り合いの家で「猫が生まれたから1匹どう?」と言われ、飼い始めてからです。生後6ヶ月で我が家の一員となったその仔猫は女の子でした。人懐こく、いつも膝の上にのり夜はベッドの中で一緒に寝ていました。しかもおしゃべりでした。甘えるような声、お腹がすいたと訴える声、時には文句を言っているようにも聞こえる鳴き方をしていました。抱っこされるのは嫌いでしたが、出かけるときは玄関まで送ってくれ、帰宅すると玄関で待っていてくれました。その猫は金木犀の香る頃、私に抱かれて旅立っていきました。15歳でした。自分でも驚くほど泣きました。
それから1年後、ペットロスに耐え切れずペットショップに行き、夫が「この子にしよう」と言った猫を家族に迎えました。でも、私はあまり気が進みませんでした。目が合わないからです。コロコロとじゃれて動き回り、首をかしげるとぬいぐるみのような愛らしい猫でしたが、ツンデレどころかツンツン猫でした。めったに鳴きません。喉をゴロゴロ鳴らすこともありません。名前を呼んでも、じっとこちらを見つめるだけで近寄ってくることはありませんでした。でも、抱っこされるのは嫌ではなかったので、私はよく抱き上げてふわふわの毛に顔をうずめていました。ブルーの瞳に吸い込まれそうなハンサムな雄猫です。
12年前、自宅の建てかえ工事のため近くのアパートに引っ越すことになりました。引っ越し業者に、これ以上荷物は運びこめないと言われるほど、玄関から奥の部屋まで段ボール箱の山でした。深夜、夫が赴任先へ帰ってしまい一人ぼっちになって途方にくれていたとき、ふと「ミルキー」と名前を呼んだら、段ボールをカリカリと爪でひっかく音がして、「ニャー(ここにいるよ)」と返事をしてくれました。1カ月前に母を失い悲しみに暮れていたあのころ、いつもそばにいて私を支えてくれました。
家族というより同居人ぐらいの存在でしたが、猛暑が終わりを告げる頃、急に具合が悪くなり、病院に連れていくと血圧が230。猫の血圧は人間と同じくらいなので重症の高血圧です。その晩、左目が白く濁り、翌日には充血して真っ赤になり見えなくなってしまいました。歩くのもおぼつかない状態でした。それまではチュールのコマーシャルのように直接人の手から食べることはしない猫でしたが、私の指先にのせた餌を口元にもっていくとペロペロと舐めてくれました。薄くて柔らかくてよく動く、あの舌の感触は忘れられません。深夜、突然立ち上がり歩き出そうとしたので驚きました。トイレに行こうとしたのです。最期までトイレに行こうと力を振り絞るその姿が健気で、立派でした。
今年は秋の訪れが遅く、10月半ばになってから金木犀が香り始めました。その金木犀の香る中、旅立っていきました。16歳でした。