「シャワーは嬉しいけれど、全裸でストレッチャーに乗せられるのは恥ずかしくて嫌でした。リハビリの理学療法士は男女とも逞しいのですが、その指先は優しく痛いところをさすってくれます。優しい言葉で心のケアもしてくれます。しかし、体力のない私はリハビリでヘロヘロ。そんなとき『ご苦労様でした。またよろしくお願いします』と言われ、えっ‼ それって、私があなたにかける言葉でしょと言うと、『患者さんがいなければ、私たちの仕事が無くなりますから』という答えでした」。
これは、94歳の外村泰子さんのスピーチです。5月にNHK学園、NHK文化センターなどでの私の講座の発表会を行いました。外村さんは講座をずっと休んでいます。2024年の11月に腰椎圧迫骨折、左手の肘の骨折などをしたからです。1ヶ月間入院した後、リハビリのために転院し、昨年の2月にやっと自宅に帰ることができました。そんな外村さんから、発表会には参加したいという連絡がありました。スピーチのタイトルは「94歳を生きる」。その潔いタイトルに頼もしさを感じました。さらに送られてきた原稿を見て驚きました。400字詰め原稿用紙が7枚もあったからです。
体調が悪かったら行けないということでしたが、前の晩、「明日は入れ歯も補聴器もしないので会話はできないから、言いたいことだけ言うことにします」とメールがありました。これを見て、必ずいらっしゃると確信しました。
第1部が終わるころ、お嬢さんに付き添われて、手押し車に体を預けて外村さんが姿を現しました。少しやせられましたが、イスに座り94歳を生きるという決意をお話しくださいました。声はだれよりも大きく、滑舌もしっかりしていました。やはり声は元気のバロメーターなのです。
「自分でも知らなかった老いを生きる大変さを話したいと、私はきょうやってきました。最後に皆さんに心がけていただきたいことを4つお伝えします。1:歯を治療して、よく噛んで食べることで脳が活性化します。2:いくつになっても自分の足で歩けるように、なるべく階段を使うように。3:できるだけ外出し、誰かとおしゃべりしましょう。4:病気は辛いけれど、自分を見失わないようにと自分に言い聞かせて、生きることに挑戦してください」
会場から割れんばかりの拍手がわき起こりました。長年大学で顕微鏡をのぞいて研究をしてきた外村さん、話し方を勉強したいと私の講座に入ってきて15年。だれよりも上手に自分の想いを言葉にのせたスピーチだったと感服しました。