「村松さん、子育て中の母親に役立つ講座をしてもらえないかな?」電話の人懐こい声に誘われて話を聞きに行くと、「これ、今朝採れたばかりのヤーコン。芋のようなものだけど、おいしいから食べてみて」。
初めて食べるヤーコンは、シャキシャキと歯ごたえがよく甘みがありました。このヤーコンにつられて、私は東京・福生市の松林(しょうりん)公民館で「子育てと自分を磨く話し方講座」を5回行うことにしました。講座中はお子さんを保育室に預けることができる託児保育付き講座です。ママ友作りのための声のかけ方や、保護者会などでの司会のコツ、絵本の読み聞かせなど盛りだくさんの内容です。
皆さん、眼差しが真剣です。私がアドバイスすると、みるみる話し方が上達するので教え甲斐があります。学生に教えているような錯覚に陥りますが、2時間の講座の残り10分で、一瞬にして母親の顔に戻ります。保育担当者が教室にやってきて子ども達のようすを話すからです。「〇〇ちゃんは、はじめはお母さんと離れたくなくて泣いていましたが、シールを貼るよ!というと、ピタッと泣き止みました。〇〇君は、きょうはおやつをお代わりしましたよ」。1回目は大泣きをしたお子さんも、回を重ねると少しずつ友達とかかわりを持てるようになってきます。おやつを食べなかった子もほかの子が食べているのを見て、つられて食べるようになったり、泣いている子におもちゃを持っていってあげたり、適応力が出てくるようすがお話から伝わってきます。ただ預かるだけではなく、子どもたちに目を向け、変化を感じ取り、成長したことを報告するのです。それを聞いている母親たちの目の輝きを見ると、保育担当者も頑張ろうという気持ちがわいてくることでしょう。
講座が終わると、お母さんたちは保育室の入り口にスタンバイし、「もういいかい?」という子どもの声に、「もういいよ!」と答えます。子どもたちから歓声が上がる瞬間です。
母親の腕の中にいた子が、少しずつ腕の外に出て、我慢することをおぼえ、社会のルールを身につけていくのです。公民館は、大人だけでなく、幼い子の社会を生きる力も育んでくれるのだと実感しました。
ちなみに、松林公民館の井上日出夫館長も、草笛講座を企画したことがきっかけで草笛の名人となり、テレビ番組で、人気グループ「嵐」に草笛を教えたこともあるそうです。公民館は新たな自分に出会える場なのですね。