世界最高齢女子アナ、シノちゃんが111歳で老衰のため亡くなったと聞いて、驚いた方もいらっしゃるでしょう。いったい何十年アナウンサーをしていたの!?と……。シノちゃんこと、森シノさんは、2001年に開局した熊本県のインターネット放送局「天草テレビ」のアナウンサーで、デビューしたのは102歳。それまでは農業一筋。天草弁とはじけるような笑顔で、あっという間に人気者になりました。金さん銀さんを思わせるような可愛らしさと、何事にも動じない自然体が魅力です。麻生さんが総理大臣だった時には、天草テレビで対談もしたそうです。
アナウンサーという仕事をしていると、だいたい50代になると、声が出にくくなったとか、滑舌が悪くなったということを自覚し、引退という二文字がチラつき始めます。女性の場合、40代になると、現場から「使いにくい」などと言われ、番組から降ろされてしまうこともあります。マスコミもまだまだ男社会なのです。
毎年、夏の終わりに、農政や食生活に関わる仕事をしているジャーナリストの集まりがあります。放送局や新聞社、出版社を退職しフリーランスになった人も多く、年配の姿が目につきます。昨年、その会で、ある人から声をかけられました。名刺には、「経済ジャーナリスト 長谷川洋三」と書いてあります。その時は、あまりにもお痩せになっていたので、あの蝶ネクタイ姿の名物記者だとは、わかりませんでした。経済界の一線で活躍している方を招いて講演してもらう会を主宰しているので、あなたもいらっしゃいというお誘いでした。「僕は、今ちょっと病気で痩せちゃったけど、人生これからだからね!」と、力強くおっしゃっていました。
ちょうど1年前の今頃から今年にかけて、私はそのランチ講演会に参加し、「日本生産性本部とアベノミクス」と題する茂木友三郎さんの講演や、朝田照男さんの「総合商社のグローバル戦略」という講演を聴く機会に恵まれました。お二人のお話には、「これからの日本経済を活性化するのは女性の力である」というメッセージも含まれていました。経済界の重鎮のお話を伺うことができて感謝しているとメールで伝えようとした矢先、長谷川さんの訃報が届きました。
すい臓がんで苦しみながらも、最期までラジオ番組出演を気にかけていたと、お兄様からうかがいました。百歳を過ぎてからアナウンサーになったシノちゃんと、「人生これからだからね!」という長谷川さんの声が、私の背中を押してくれます。本当に、人生これからですよね!