ある話し方教室に、"ニッコリ"という形容がぴったりな女性が入ってきました。ひとなつこい笑顔で自己紹介をし、人前で話す機会が多いので、上手な話し方を身につけたいとおっしゃいます。表情豊かに話します。でも、話がすぐ横道にそれてしまう癖があり、結局何を言いたかったのかわからなくなってしまうことも。それでも、「ま、いいか」と、ペロッと舌を出すので、その可愛らしさに思わず笑いがおこります。天真爛漫です。わからないことがあると、私が話している時でもお構いなしに隣の人に尋ねます。けっこう大きな声なので、私が注意すると、「あら、ごめんなさい」と、首をすくめます。憎めないのです。和服を洋服にリフォームする仕事をしていて、時々自分で仕立てたワンピースを着ていらっしゃいます。お孫さんが、土用の丑の日にアルバイト先のウナギ屋さんから、うな重のお土産を持ってきてくれたと嬉しそうに話してくれました。旅行に行くと、皆で食べるようにと、お土産を買ってきてくれます。さりげない気配りに感心します。
その女性から、思いがけない話を聞きました。数年前、猛烈な腹痛に襲われたのですが、大事な仕事を抱えていたので我慢して仕事を続け、終わってから病院に駆け込みました。すると、大腸がんで直ちに手術をした方がいいと告げられ、そのまま入院。大腸の半分を切除したそうです。1か月間お水を飲むことも許されない状態が続き、やっと退院できました。その後再発し、5年間に3回も手術を受け、大腸は3分の1しか残っていないというのです。縫合したところが裂けて腹膜炎になってしまったことも。生きるか死ぬか、まさに崖っぷちに立たされていた時、彼女は主治医に「私は布を切って縫い合わせる仕事をしているんですが、大腸と小腸も縫い合わせればくっつくのですか?」と、尋ねたそうです。先生は「くっつきますよ。大腸はなくても生きていけるから大丈夫だよ」と、笑いながら答えてくれたそうです。看護師さん達も、「切っても切ってもくっついて、まるでトカゲのように生命力があるから大丈夫!」と褒めてくれ、病室には笑い声が絶えなかったそうです。
今では、すっかり丈夫になりました。再発したらどうしようと不安だっただろうに……。病気になっても悲観しないで前向きに考えること、そして、自分も周りの人も笑えるように心がけることがいかに大事であるか、屈託のない笑顔が教えてくれました。