東京都三鷹市のある小学校では、国語の研究授業に取り組んでいます。言葉を通して子どもの心を育むことがテーマです。その研究発表会のリハーサルを見て、アドバイスをしてほしいと頼まれました。
体育館へ案内されると、発表する先生方はいくぶん緊張気味でスタンバイしていました。舞台上にはスクリーンが用意され、パソコンを使って文字や写真などを映し出しながら発表していきます。発表者は、ステージ下の演台で自分の担当部分を読み上げていきます。リハーサルが始まって間もなく、私はストップをかけ、ステージの上で発表するように提案しました。うす暗いステージの下で原稿を読むと、うつむいたままになり、内容が伝わりにくいと思ったからです。
「舞台の上ですか!?」驚きの声と抵抗の視線を感じましたが、「大丈夫! とりあえず舞台で発表してみましょう」と言うと、最初の発表者が舞台の上へ。
すると、同じ原稿を読んでいるのに、明らかに下で読むのとは違います。舞台に上がるだけで、話し方に変化が現れるのです。"見られている"ことを意識するからです。演台がないので、話し手は、頭からつま先まで気を配り、原稿を手にしながらも、会場の人たちを意識して話すようになりました。言葉を通して教育をするのだから、まず先生方が「伝わる」話し方をしないとね! 読み口調から語り口調になり、表情もイキイキとしてきます。先生方のやる気スイッチが入り、研究発表会が実りあるものになったことは、言うまでもありません。
後日、その学校の2年生に授業をしました。5,6時間めを使って上手な自己紹介をして友達をつくろうという授業です。マイクの持ち方から、発声練習、挨拶の仕方を教えました。前に出て自己紹介をしてもらおうとしましたが、恥ずかしがって、なかなか手が上がりません。
ところが、休み時間になった途端、私は子どもたちに囲まれました。皆、マイクを使って名前を言ってみたいのです。順番にマイクを回していたら、しっかりした声で、はっきりと名前を告げる男の子がいました。上手だと褒めると、嬉しそうにはにかみました。「授業中も、そんなふうにしっかりしてくれるといいのになぁ!」と誰かが言うので、大笑いしました。彼は、勉強が好きではなさそうでした。ところが、次の授業を始めると、彼は、姿勢良く私の話を聴き、力のこもった眼でジッと私を見ました。真剣さが伝わってきます。他の子達が騒ぎだした時、「静かにしてください!」と注意してくれました。これには、担任の先生も驚き、感激していました。やる気スイッチが入ると、こんなにも頼もしくなるのだと、私も嬉しくなりました。
やる気スイッチは、潜在能力を引き出すスイッチです。いくつになってもスイッチをオンにして、新しい自分と出会いたいものですね。