「なぜ、うちの子はダメなんだろう? なぜ、毎日謝りにいかなきゃならないの?」そう言って、彼女は涙ぐみました。彼女には、ふたりの男の子がいます。上のお子さんは、当時小学生でした。授業中ジッとしていません。興味のあるものを見つけると、すぐにダッシュ! 友達を突き飛ばしケガをさせてしまうことも。本人がケガをして帰ってくることもあります。ある先生からは、「お宅のお子さんには、障がいがあるから、一度病院で検査を受けた方がいい」と、勧められたそうです。何度も言われるので、仕方なく検査を受けることに……。結果は、異常なし。でも、彼女は、保護者会にも顔を出さなくなりました。長男に続き、次男も小学校に入ると「検査を受けるように」と言われました。
そんな頃、私は彼女と出会いました。私の話し方教室に入会してきたのです。明るくチャーミングな人ですが、子どもの話になると、思いつめたような表情をしました。話し方教室の発表会の日、彼女はお子さん達を連れてきました。リハーサルの間も、少しもおとなしくしていません。「そっち行っちゃだめだよ!」「そこは、触らないでね」。教室の仲間が目配りしてくれました。
「ねえ、真貴子先生、マイク持ってみていい?」興味を持ったらしく、私のそばを離れません。「僕も発表会に出たいな」。その言葉を聞いて、本番で舞台に上がってもらうことにしました。私は感心しました。物おじしないのです。
「大丈夫!しっかりしているよ。それに賢い。打てば響く感性の持ち主だから、きっと大物になるよ」。「今は元気すぎて大変かもしれないけれど、大きくなれば大丈夫!素直ないい子達だよ」。子育ての先輩でもある教室の皆さんからの言葉は、彼女の心を軽くしたと思います。
ふたりとも、文字を認識する力が弱く、漢字が書けなかったり、読めなかったりするので、テスト問題が読めずに成績は悪かったようです。息子の友達にも、そういうお子さんは何人かいました。すべて男の子でした。先生が、漢字にルビを振るなど工夫してくれたおかげで、テストは受けられましたが、親御さんは心を痛めたことでしょう。
さて、そんなふたりの男の子は今どうしているかというと、上のお子さんは医学部を目指して猛勉強中、下のお子さんは中学生になり、ダンスに夢中です。ふたりとも、すっかり落ち着いて素敵な青年になりました。 子育ては心配事が尽きません。一人で抱え込まないで、まわりに相談し、大勢の目で子どもをみつめることも必要です。みんなの目によって、子どもの可能性は広がっていくのです。みんなの目、長い目で子どもたちを見守りたいですね。