息子が一人暮らしを始めて3年が経ちました。朝、なかなか起きない息子の顔に、霧吹きで水をかけて起こすストレスから解放されて、気が楽になりました。同じ都内に住んでいるから、会おうと思えばいつでも会えるし、携帯電話でメールもできるから安心です。ところが、元気かどうかメールしても、待てど暮らせど返信がありません。電話しても、「ただ今電話に出られません…」というメッセージが聞こえてくるだけです。もしかして具合が悪くて寝ているのではないか、仕事はうまくいっているのだろうか……。急に不安の雲が広がっていきます。
こんな時、親って大変だなと、つくづく思います。子どもが成人して働くようになっても、いつも心のどこかで案じています。こんなに切ない片思いが、きっとずっと続いていくのかもしれませんね。
先日、引っ越しした後、手つかずになっていた段ボール箱を開けました。中にはおびただしい数の写真が詰まっています。息子が誕生した頃は、立派な分厚いアルバムにメッセージを添えて写真を貼っていたものですが、仕事に追われているうちに、そのまま箱の中に放り込んでいたのです。軽くてたくさん入るアルバムに写真を収めていたら、懐かしい写真を見つけました。私が静岡放送局でアナウンサーとして社会人の一歩を踏み出すため、静岡に引っ越しをした時の写真です。東名高速道路のサービスエリアで昼食をとった後、皆で並んで写しました。
父も母も若い! 二人ともニコニコしています。ちょうど今の私くらいの年齢です。私が夢を叶えてアナウンサーになったことは、もちろん喜んでくれたけれど、親元を離れることになった時、母はどんな気持ちだったのでしょう……?あの時、私の体のことをひたすら心配していました。でも、母とどんな会話をしたのか覚えていません。母がどんなことを考え、どんな思いでいたのか、今となっては知る術もありません。時々かかってくる電話に、きっとそっけない返事をしていたと思います。母も、ずっと片思いしていたのでしょう。もっと優しくしてあげればよかった……。
一人の人間として、女性として、母と向き合ったのは、父が亡くなって母が一人暮らしを始めた頃でした。たくさんお喋りしました。多少のことでは動じない強さと、どんな状況でもくじけず前向きに生きようとする健気さ、そして面白いことを言って笑わせるユーモアに感動しました。母は、私にとって、大親友になりました。
「親の心子知らず」。「返事のないのは元気な証拠」。私の片思いは続いています。