私が学生の頃、大好きだった番組があります。TBSの夕方のニュース番組「テレポートTBS6」です。キャスターを務めていたのは、山本文郎さんと岩崎真純さんでした。山本さんの穏やかな人柄と、岩崎さんの親しみやすさがテレビから伝わってきました。山本さんと岩崎さんは、私の憧れのアナウンサーでした。
大学を卒業してTBS系列のSBS静岡放送のアナウンサーになり、夕方の「テレビ夕刊」を担当することが決まった時、山本さんにお願いしてスタジオにお邪魔したことがありました。ニュースの読み方や番組の進め方など、いろいろとアドバイスしてくださいました。広々としたスタジオの照明は眩しく、スタッフの数の多さに圧倒されました。緊急ニュースが入ってきても慌てることもなく、岩崎さんにアドリブで話しかけ、その当意即妙なやりとりに感激しました。それをご縁に、おふたりと時々お会いするようになりました。
山本さんは、まだ駆け出しのアナウンサーだった頃、現場中継で大失敗したそうです。ディレクターが、「中継をするから早くこっちに来い!」と合図したので、慌てて駆け寄ったら、無意識のうちに棺をまたいでしまったのだそうです。「おまえ家族がこの棺の中にいたとしたら、どんな気持ちがするか考えてみろ!」と、怒鳴られました。取り返しのつかないことをしてしまったと、深く反省したのですが、それ以来、何年間も番組から外され、アナウンサーを辞めようかと悩み続けたことがあったそうです。事件事故の陰には、さまざまな人の想いがあるということ、またアナウンサーである前に、ひとりの人間でなければならないことを心に刻んだそうです。周りの人に対する気配りも、そんな経験からきているのでしょう。
岩崎真純さんは、私がNHKに移り、ニュース番組や「きょうの料理」を担当していた頃、久しぶりに電話があり再会しました。「きょうの料理」の聞き手をしたいとおっしゃるので、プロデューサーに紹介したところ、すぐに実現しました。岩崎さんは大変喜んで、マンリョウの鉢植えを贈ってくださいました。庭に植えたらぐんぐん大きくなり、毎年たくさんの赤い実をつけました。
その岩崎さんは、数年前に自宅が全焼し、亡くなってしまいました。"ぶん文さん"の愛称で親しまれた山本さんも、春先に急逝してしまいました。「ありがとう」も「さようなら」も言えずにお別れしてしまったことが、残念でなりません。