電子楽器でおなじみのローランドの創業者、梯(かけはし)郁太郎さんが、グラミー賞を受賞しました。ミディという電子音楽互換規格を開発し普及させましたが、多くの方々に使ってもらうため特許をとりませんでした。その功績を讃えられグラミー賞テクニカルアワード受賞となったのです。
受賞を記念する音楽会の司会を務めました。ピアニストとオルガニスト5人が出演するとあって、入念なリハーサルが行われました。曲に合わせた映像もスクリーンに映し出され、目と耳で楽しめる音楽会です。プログラムのラスト曲、「源氏物語幻想交響絵巻」は、ローランドが誇る最高級電子オルガン「ミュージックアトリエ」を、橘ユリさんが演奏します。両手両足を駆使して、鍵盤を弾きながら、たくさんのスイッチを操作します。マジシャンのようでした。ひとりで、オーケストラの演奏ができるのですから。
満席の来場者を迎え、いよいよ本番です。梯郁太郎さんは83才。町の時計屋さんでした。たまたま近所の人にオルガンの修理を頼まれたことがきっかけで、ローランド誕生に至ったのでした。そんなプロフィールビデオが流れた後、演奏が始まりました。演奏者とスタッフの息が合って順調に進みました。
いよいよ「源氏物語幻想交響絵巻」。作曲者の冨田勲さんが会場にいらしたのでご紹介すると、歓声が上がりました。準備ができるまで、オルガニストの橘さんにインタビューしていたのですが、予定の時間を過ぎてもOKのサインが出ません。それどころか、大勢のスタッフがステージ上に集まり始めたではありませんか! ただ事ではありません。舞台監督から、話でつなぐようにというサインが出ました。せいぜい5分ぐらいだと思っていました。でも、10分経ってもステージ上は、張り詰めた雰囲気です。スタッフの動きとお客さんの様子、橘さんの表情などアンテナを張り巡らせながら、アドリブでつなぎました。リハーサルで聴いた「源氏物語…」が、いかに素晴らしかったか説明すると、観客が身を乗り出してくるのを感じました。
その時です。舞台監督から、演奏断念のサインが……! 断線してしまったのだそうです。なんということ!! 何度もお詫びしました。番組でも何回もお詫びをしましたが、この時ほど謝ったことはありません。幸い、混乱はありませんでした。ボンベで酸素吸入しながら客席で聴いていた梯さんが、出口で頭を下げてお見送りしていたからでしょう。リベンジ演奏会は、12月に決定。私もリベンジしなくちゃ!