先日、大津市で行われた公民館研修大会の帰り道でのことです。京都駅まで行こうと在来線に乗った途端、大きな怒鳴り声がして、私は凍りつきました。声のする方を見ましたが、車内は混んでいて、誰が怒鳴っているのかわかりませんでした。波が引くように、人の輪がスーッと広がりました。「おんどりゃー、このー!」と、怒っているので迫力があります。座席に荷物を置いている人に、腹を立てているようです。凄味がありました。ケンカにならなければいいなと思いました。荷物をどかしてからも、怒声はしつこく車内に響いていました。思わず「おんどりゃー、いい加減にせんかい!」と、私が叫びたくなるほどでした。
それにしても、他に言い方がなかったのでしょうか? 「混んでるから、荷物は棚に上げるか、膝の上に置いてくれませんか?」 こんなふうに言えば、"苦情"も"お願い"のようなニュアンスになるのに……。
そういえば、以前、山口県で講演した帰り道、広島まで在来線に乗った時のことです。昼下がりとあって乗客はまばらで、先頭車両には、数人の学生と、老夫婦、それに女性がひとり座っていただけでした。安芸の宮島を過ぎたあたりだったと思いますが、かなり長いこと、列車がホームに停まっていました。私は、のんびりと、穏やかに光る海を眺めていました。すると、10分程経ったころ、踏切で遮断機が下りたままになっているので、発車できないという車内放送がありました。人身事故ではないし、それほど時間はかからないだろうと思いました。ところが、電車は一向に動き出す気配はありません。20分ほど経過すると、新幹線に間に合わなかったらどうしようと、私は心配になりました。他の乗客はというと、イライラしたようすは感じられません。
状況を告げる車内放送もないので、遂に頭にきて、運転手に抗議しようと立ち上がり、足を踏み出した、その時です。私の斜め前に座っていた年配の女性が、突然運転席のドアをドンドンドンと激しく叩き始めるではありませんか! 車掌が驚いてドアを開けると、 「どうなっとるんじゃ! いつまで待たせるんかい!」 私は、唖然としました。しとやかな感じの人が、極道の妻を演じる岩下志麻に変わった瞬間でした。私の怒りを鎮めて余りある迫力がありました。新幹線に間に合ったこともあって、この時の広島(?)弁は、頼もしく感じられました。思いをストレートに伝えるには、方言が一番なのだと実感しました。