父が他界して1年半。85歳の母は、時折涙ぐむこともありますが、なんとかひとり暮らしのペースができたようです。1週間の中心となるのは、木曜日。幼なじみに誘われて通い始めた編み物教室です。幼なじみと言っても、知り合ったのは20歳の頃ですから、もう65年。年季が入った付き合いです。祖母と父の介護のために5年間程休んでいましたが、また声をかけていただき、通い始めることにしたのです。
以前は、自転車で通っていたのですが、足が痛くなって自転車に乗れなくなってしまい、今は編み物教室の先生が車で送迎してくださいます。まさに、至れり尽くせりです。そんなまわりの方達の励ましを受けて、母はしだいにイキイキとしてきました。
編み物教室の生徒さんは、60代から85歳の母まで6人。棒針編みの人もいれば鉤針編みの人もいます。それぞれの技術と編みたいものに合わせて、先生が教えてくれるそうです。酸いも甘いも経験した女性達が集まれば、話に花が咲きます。孫のこと、病気のこと、おいしいレストラン情報など……。編み物の先生は、70代で、自分も娘も結婚が遅かったから孫は無理だと諦めていたそうです。ところが、先日初孫が誕生しました。すると、「孫はなんて可愛いのでしょう!」と、先生も目じりが下がりっぱなしで、孫のことになると夢中になるそうです。
普段、猫を相手に話をしている母にとっては、製図を見て考えながら手を動かし、耳で話を聞いて口を動かすという貴重な場となっています。2時間の教室が終わると、ランチライム。先生が、さまざまなお店に案内してくれるそうで、それがまた楽しいようです。
お寿司なら、どこのお店がお勧めだとか、どのお店が割引券をくれるとか、イタリアンならあのお店、釜めしならあのお店がいいと、母のグルメ情報も多彩になりました。まさに、巷で流行っている「女子会」です。お化粧もあまりしなかった母が、木曜日はうっすらとお化粧をして出かけていくようになりました。
先日は、私の夫にセーターを編んでくれました。センスのいい色の毛糸でおしゃれな編みこみがしてあります。夫は大喜びしていました。編みあがってプレゼントした時の相手の笑顔も、母を元気にしてくれます。
私の話し方教室には、男性もいらっしゃいますが、早口言葉が得意なのは、言うまでもなく女性です。"よく喋り、よく笑い、よく食べる"それが、いくつになっても、元気の素なのだと確信しました。