社会人となった息子が一人暮らしを始めて2年めを迎えました。通勤に便利な会社の寮に入ったのです。これで、毎朝起こす役目から解放され、食べるかどうかわからない食事の支度から解放されるかと思うと、心晴々とした気分でした。自分のペースで生活でき、部屋が散らかることもなく、ストレス軽減の日々が続きました。
ところが、しばらくすると、遅刻しないで会社に行っているだろうか? 野菜をちゃんと食べているかな? 洗濯は? 部屋はきれいに片づけているかしら……? 気にしだすと、次から次へと心配の種が広がっていきます。そこで、メールをしてみることに。ところが、何日経っても返信はないし、もちろん電話にも出ません。
そんなある日、私の携帯電話に登録されていない番号から電話がかかってきました。しかも最初の3桁は見たこともない番号です。仕事関係の電話だと思いました。 「はい、村松です」 「あ、僕だけど」 「失礼ですが、どちら様ですか?」 「え!? 僕です。息子ですが……」
明らかに怪しい電話です。口調もオドオドしています。ピンとひらめきました。これが噂の振りこめ詐欺です。私は毅然とした口調で言いました。 「私には息子は居りません!」 すると、 「え!? あのー、村松さんの電話ですよね?」 「そうですが、私には息子はいないので、失礼します」
そう言って電話を切りました。遂に私にもかかってきたと思い、引っかからなくて良かったとホッとしたら、また同じ番号から着信が!
今度は開口一番、「あなたの息子の拓海です」というので、名前ぐらい調べれば分かるから、「猫の名前は?」と尋ねました。すると「ミルキー」と答えたので、詐欺ではなく息子からの電話だとわかりました。
仕事のためにIP電話にしたので、通話状態を確かめるために私に電話をしたというのです。見慣れない番号だったし、暫く息子と話をしていなかったので声を聞いてもわかりませんでした。息子も、私がビジネスライクに電話に出たので、番号を間違えたかと思ったそうで、大笑いしました。
先日は財布を無くしたと電話がありました。困った時だけ、連絡があります。電話もメールも来ない時は、元気な証しなのだと、つくづく感じました。以来、心配することはやめました。それにしても、たまには元気な声が聞きたいものです。私の両親も、こんな思いをしたのかもしれません。いつの世も、親の気持ちは同じですね。