その人は、顔の右側の頬から目にかけて、赤黒い大きな瘤のようなものがありました。デコボコしているために、眼鏡が浮いているようです。誰しもが、その黒いところに目がいってしまいます。
藤井照明さん、54歳。我が家の近くの小学校で授業をするというので見学させていただきました。病名は海綿状血管腫。血管の壁が崩れて腫れてくる難病です。藤井さんが教室に現れると、子どもたちは静まりかえりました。お構いなしに藤井さんは、ニコニコしながら 「皆さーん、こんにちはー。てるちゃんです。テルさまーと呼んでもいいですよー」
教室に笑い声が弾けました。藤井さんは黒板のところに、次々とご自分が書いた本を並べました。藤井さんがモデルを務めた写真集もあります。「てるちゃんのかお」という絵本や講演のCDもありました。顔が腫れていても、こんなにたくさんの本を出せるのだという言葉に、子どもたちは身を乗り出します。
幼少時は、「オバケ」「バケモノ」「学校へ来るな!」と、いじめられ、その顔のために就職もできず、自殺をも考えたそうです。
ところが、今は自分の顔が愛おしくてたまらないとおっしゃいます。「ひとりひとり顔も表情も違う。これは藤井さんだけの顔なんだよ。自分も友達も、世界にたったひとりしかいない。だから大事にしよう。だから自分の姿や顔に自信を持とうね」そう呼びかけました。
更に、僕の顔に触ってみたい人はいるかと尋ねるではありませんか! 誰も手を挙げません。すると「うつらないから大丈夫だよ、なでなでタッチしてみてよ」という言葉に促され数人が手を挙げました。藤井さんが椅子に座り、その前に子ども達が並びました。始めは遠慮がちに手を伸ばしていましたが、「やわらかい!」という声を聞いて、列が長くなり、全員が藤井さんの顔に触りました。見た目で差別をしてはいけないということを、身をもって教えてくれました。
その藤井さんに生きる希望を与えてくれた場所が、なんと、公民館だったそうです。仕事に就けず絶望的になっていた時、参加した講座で、講師が「君の病気は治るから、私のところにきなさい」と、声を掛けてくれました。この医師との出会いにより、藤井さんは自分の病気を解明するために医者になろうと大学に入り直したそうです。
瘤はだいぶ小さくなりました。「すべてなくなったら、僕が僕でなくなっちゃうから、このままでいいんです」藤井さんは、ニッコリ笑いました。