タカちゃんは、10歳。元気な小学5年生です。学校が大好きで友だちも大勢います。ダウン症で特別支援学級に通っています。
小学校入学当初は、落ち着きがなく、集団生活になじめるか、母親は気の休まる時がなかったそうです。仕事中も携帯電話に注意を払い、学校から電話があるたびに、「また、何かあったの!」と、ビクビクしたそうです。
タカちゃんは、学校が終わると学童保育所に行きます。はじめのころは、おやつが出ると、皆で分けて食べるということができなかったそうです。そこで、先生方は、おやつは、一人ずつ分けて出すようにしてくれました。
運動会では、徒競争が苦手です。列に並んでいても、自分の番がくると、さっと後ろに逃げてしまい、走ったことがありませんでした。ピストルの音が苦手なのかもしれません。ところが、ついこの前行われた運動会では、ゴールを切ることができました。タカちゃんを最初に走らせれば大丈夫かもしれないと、先生方が配慮してくださったのです。ゴールした瞬間、母親は嬉しくて泣きました。
よさこいうソーラン節も、みんなと一緒に踊ることができました。タカちゃんは、自分のペースで、ゆっくりと成長しているのです。
タカちゃんが生まれてダウン症だとわかった時、母親はショックで、受け入れるのに時間がかかったと言います。医療機関でさまざまなアドバイスを受けました。その中で「お母さん、大丈夫! 今は大変だけれど、10年経ったら楽になるよ。10年辛抱してごらん」と、言葉をかけてくれた先生がいました。
10年経って、今その言葉が胸にしみています。学童保育所では、大皿に盛られたおやつも、ちゃんと分けて食べられるようになりました。見ているだけだったサッカーにも、「入れて!」と、自分から走って行くようになりました。友だちは、タカちゃんが受けやすいように優しいボールをくれるそうです。
ある日の帰り道、好奇の目でジロジロ見る子や、ヒソヒソ話をしている子ども達を見て、彼女は「なによ!」と、心の中で怒ったそうです。ところが、タカちゃんは、そんな刺さるような視線に対しても、「さようなら~」と、手を振って気持ちよく挨拶をしていました。その屈託のない笑顔に、ハッとしたそうです。10年経って、我が子から教わっている自分に気がつきました。
最初は、その言葉の深さがわからなくても、ある時、ふとその言葉の重みを感じることがあります。力のある言葉は、心の奥底でジッと出番を待っているのです。