はにかんだような笑みを浮かべて、彼女は私を見ました。あたりを優しい雰囲気に変えてしまうフワッとした笑顔でした。子育ては大変だと言いながらも楽しそうにお子さんのことを語り、PTA活動にも参加し、自分磨きにも力を注ぎイキイキしている姿からは、充実した日々のようすが伝わってきました。
その笑顔が遠慮がちになったかなと思っていたら、うつ病になってしまったというので、驚きました。
また、屈託のない大きな笑い声からは、なんの悩みもないように見えた別の女性も、実はうつ病で1年間外出もできず苦しかったというではありませんか! 生きる気力を失い、何もする気が起こらなくなり、ひたすら家に閉じこもっていたそうです。家族の支えがあったから立ち直り、今は生きていることが嬉しくて、心から笑えるようになったと話してくれました。
身近なところにうつ病で悩む人が多いことに驚いていると、「あら、私もうつ病だったのよ」と、数人の友人が事も無げに言うので、またびっくり! 皆、明るい雰囲気の人たちですが、きっと、その時は出口の見えない長いトンネルに入ってしまったような不安な気持ちで毎日を送っていたことでしょう。うつ病は心の風邪のようなものだと言われますが、あらためて現代はストレス社会であるということを思い知らされました。
考えてみれば、明るく前向きな考え方をする私でさえ、落ち込むことはあります。些細なことがきっかけで、何もかもうまくいかないような気がしてしまうことがあります。息子のたあいもないひと言で、深く傷ついたり、時には、何もかも放り出してしまいたいと思うことだってあります。
先日、99歳の詩人、柴田トヨさんの「くじけないで」という詩集を読みました。90歳を過ぎてから書き始めた詩集です。
「…陽射しやそよ風は えこひいきしない 夢は平等に見られるのよ 私 辛いことがあったけれど 生きていてよかった…」
明治、大正、昭和、平成と1世紀を生き抜いたトヨさんの言葉は心にしみてきます。がんばらなくていい、気楽が一番! ケンカしたり失敗したり、人生いろいろあるけれど、当たり前の暮らしのなかに、実はかけがえのない幸せがあるということを教えてくれます。心が弱ったとき、手に取ってみてはいかがでしょう。
その中から私の好きな詩をご紹介します。
「貯金」
私ね 人から
やさしさを貰ったら
心に貯金をしておくの
さびしくなった時は
それを引き出して
元気になる
あなたも 今から
積んでおきなさい
年金より
いいわよ
(飛鳥新社 柴田トヨ)