東京浅草寺の隣にある浅草寺幼稚園の図書館で、年に数回読み聞かせをする機会をいただいています。先日、小学生の教科書にも掲載されている「かわいそうなぞう」(金の星社)を読みました。第2次大戦中の上野動物園で、餌どころか水さえ飲ませてもらえず餓死させられた象の話です。幼稚園児には難しすぎるかなと気になったので、理解しているかどうか、子どもたちの顔を見ながら、ゆっくり読みました。
友だちにちょっかいをだしてふざけていた男の子も、しだいに引きこまれていくようすが、手に取るように分かりました。読み終わったとき、ひとりの女の子が、クスン、クスンと鼻を鳴らし始めました。
「どうしたの? 大丈夫?」
具合が悪いのかと思い声をかけると、その子は突然大声で泣き出しました。「お腹痛いの?」私は慌てて近寄りました。すると、「ぞうさん、かわいそう!」と、言うではありませんか! 離れたところで見ていた母親が抱っこすると、声を張りあげて泣き出しました。
あらためて、子どもの豊かな感性と優しさに感動しました。理解できないかもしれないと思った自分を反省しました。
「かわいそうなぞう」は絵本ですが、もう少し高学年向けの本が、今年の終戦記念日に合わせて出版されました。「わたしの見た かわいそうなゾウ」(今人舎)です。上野動物園で40年あまり働いた、故澤田喜子さんが書き遺したものです。
5年前、上野動物園のホールで、澤田喜子さんの死後みつかった動物園回想録の一部を朗読しました。そのとき、これをなんとか本にして、一人でも多くの子どもたちに読んでほしい! と、強く思いました。誰でも一度は行ったことのある動物園。動物がいて当たり前のその動物園に、動物たちを殺さなければならない辛い歴史があったことを知れば、平和に対する意識が深まると思ったからです。
表紙には、戦争のさなか死んでいく象のトンキー、ワンリーとの最後の記念写真が使われています。2頭とも、自分たちの運命を知るはずもなく、頭を振って機嫌が良かったと書かれています。上野動物園のすぐそばに住んでいた澤田さんの家に、動物園を逃げ出してきた猿が飛び込んできたことや、黒豹が逃げだしたときのエピソードなどもつづられています。
戦前、戦中、戦後と上野動物園で働き、戦争で殺された動物たち、平和になってやってきた動物たちを通して、平和を願い続けた澤田さん。これから、全国各地で朗読させていただきますね。