「ついこの間二十歳だと思っていたら、あっという間に84歳。今は猫のミーちゃんと二人暮らし。NHK学園の、超明るい村松先生の話し方教室に通い、皆さんから若さをいただき、週に1回デイサービスに通い、書道にいそしんでいます。これからも人に迷惑をかけないように気をつけて、いろいろ楽しんで100歳までがんばりたい!」
そう言って田村玲子さんは、「ボケない小唄」を披露してくださいました。
こんなメッセージで会場を沸かせたのは、ついこの前、ひな祭りに行なった「思いを言葉にのせて」というステージでした。発表会直前の練習日に、
「100歳までという言葉はやめようかと思う」
いつになく弱気な玲子さんの発言に、教室の仲間は大反対。本番では、「100歳まで」と、しっかりおっしゃいました。
玲子さんは、10年ほど前、長年住み慣れた埼玉県から、お嬢さん一家が住む国立駅前に引っ越してきました。70歳を過ぎてからの引っ越しは堪えたらしく、10キロ近く体重が減ってしまったとか。見知らぬ土地での一人暮らし。NHK学園で私の話し方講座が始まることを知ると、すぐに申し込んでくださったのが出会いです。
以来、発声練習に励み早口言葉も完ぺきにこなし、課題も真っ先に仕上げ、まさに優等生。好奇心旺盛でお茶目なところもあり、皆に慕われていました。絵画が好きでよく美術展に足を運び、フェルメールの絵葉書をプレゼントしてくださったこともありました。
名古屋にいるもうひとりのお嬢さんが病に倒れた時、玲子さんは、私達が心配するほどやつれてしまいました。玲子さんを通して、親の思いの深さを知りました。
NHK「スタジオパーク」のイベントに出演した時、私が、「NHK学園のミヤコ蝶々さんです!」と紹介したら、観客からも大きな拍手をいただきました。上品で可愛らしくて、芯が強い、まさにミヤコ蝶々さんです。
そんな玲子さんが、突然帰らぬ人となりました。4月までは元気に通っていたのに、5月の連休明けの講座を休み、そのまま入院。お見舞いの相談をしていた矢先、お嬢さんから、亡くなったという電話が入りました。末期癌でした。
講座の帰りに、何回かお宅にお邪魔したことがあります。帰り際には、いつもお菓子や果物を持たせてくださいました。玲子さんに寄り添うようにしていた三毛猫のミーちゃんは、今どうしているかしら…。
最期まで人生を楽しみ、あっという間の幕引きも、あっぱれ! さすが、NHK学園のミヤコ蝶々さんです。