その女性に初めて会ったのは、日差しがさんさんと降り注ぐ小学校の教室でした。私が講演したときに、司会を務めてくださいました。間もなく定年を迎えるので退職したら思い切り好きなことをしたいと、肩をすくめてニコッと笑いました。その後、メールのやり取りが始まりました。退職後、"心も体もすこやかに"という私のステージを見に来て下さったときのメールです。 「村松さん、昨日はありがとうございました。村松さんの書いたエッセイの朗読を聞いたら、2人の娘を育てながら働いてきた自分の来し方と重なり懐かしくなりました。村松さんも、私と同じ働く母親なのだと思いながら……。そして、子育てに協力してくれた、今は亡き両親のことも思い出しました。」 このステージは、食生活ジャーナリストの佐藤達夫さんをゲストに迎えて、癌や認知症にならないようにするには、どんなことに気をつけたらいいのか、人生前向きに生きるためのメッセージをこめたトークショーです。その感想がつづられていましたが、読み進むうちに、私は胸が締め付けられるような思いにかられたことを覚えています。 そのメールの後半には、癌がみつかり、医師に手遅れだと宣告されてしまったと書かれていたからです。すでに肺に3か所も影がみつかり、その検査中で、高熱もでて苦しんでいると……。 「幸い朝には熱が下がったのでトークショーに参加させていただきました。今日も元気でおります。出かけて本当に良かった。清々しいひと時を過ごさせていただき、病気に負けずこれから自由になる自分の時間を100%エンジョイしようと思います。」 海外旅行の予定やご家族のエピソードなどを交えながら、癌と向き合い、1日1日をしっかり生きようとする意志に貫かれた内容でした。そして、また必ず私のステージにお越しくださると、再会を楽しみにしているとありました。でも、その約束は果たされることはありませんでした。 彼女のメールには、いつも私の体を気遣う言葉がありました。睡眠不足は体によくない、無理をすると、10年後の自分に振り返ってくると、実感のこもった言葉が心に沁みてきます。 「村松さん、くれぐれも無理をなさらないようにして、いつまでも大勢の方に幸せなひと時をプレゼントしてあげてください。病気ではあるけれど、心はすこやかだから大丈夫! 心配しないで。」と、言い続けた彼女。 "すこやか"の重みを、かみしめています。