知り合いのお嬢さんの結婚式の司会を頼まれました。打ち合わせに来たのは、お嬢さんと父親だけ。新郎は、結婚式は挙げたくないと言い、式場との打ち合わせにも行かず、忙しい職場の上司や友人に声をかけることも申し訳ないので誰も呼ばず、出席者は家族だけだというのです。主賓の挨拶は誰にしたらいいのか、更に、新郎新婦の紹介も生年月日と学生時代のクラブ活動ぐらいしか書いてないので悩みました。アットホームな雰囲気の披露宴にしたいという新婦の願いを叶えてあげたいけれど、新郎の真意がわからず心配になりました。当日、新郎が来なかったら……!? そんな不安さえ頭をよぎりました。
新郎新婦の紹介は、ご両親にインタビューすることにし、幼い頃描いた絵や作文を、新郎に内緒で用意してもらいました。祝辞は、マイクを回して多くの方々にひと言ずついただくことにしました。
そして当日、真っ先に新郎が来ていることを確認した私は、新郎の感触を確かめました。好青年でしたが、たしかに頑固そうでした。
披露宴は、新郎の関係者が少ないということを除けば、祝福の笑い声に溢れていました。新婦の友人たちが次々にスピーチを始めたとき、"おめでとう"の言葉の後に、突然「うっ…おえっ!」という声が……。新婦の同僚の看護師さんが、新婦の晴れ姿を見て号泣したのです。新婦は、明るくて前向き、どんなに疲れていても笑顔を絶やさない頑張りやさんで、皆の人気者だということが、大勢のスピーチから伝わってきました。新婦の健気さに心打たれて、私ももらい泣きしまいました。
新婦からご両親に宛てた手紙は、 「お母さん、これまで私を厳しく育ててくれてありがとう。お蔭で自分のことは自分ででき、どこへ行っても臆することなく生きていける力がつきました。お父さん、夜勤明けの疲れているときに、家族の思い出作りのために遊びに連れて行ってくれて、ありがとう。仕事を持って初めてお父さんの苦労がわかりました。」
そんな新婦の親に対する思いや友人たちの涙を見た新郎の謝辞は、気持ちの変化が手に取るように分かるものでした。 「原稿を用意したのですが、読みません。今の気持ちを言います。僕は間違っていました。今、僕がここにいられるのは、両親や僕を支えてくれた友人のお蔭だということを実感しました。それを教えてくれた彼女や皆さまに、感謝の気持ちでいっぱいです。」
爽やかな風が駆け抜け、改めて結婚式の意味を確認したひと時でした。お幸せにね!