夏の明治神宮。夕方6時。閉門と同時に、私たちは大鳥居をくぐりました。原宿、表参道界隈の商店会の方たちが運営している「原宿ケヤキ学校」主催の「夜の明治神宮散策」です。
案内役の宮司さんが、私たちにお喋りをやめて五感を研ぎ澄まして歩くようにと言いました。促されるまま足もとに神経を集中して歩きだすと、スニーカーからは力強い音が、ハイヒールだと硬い音がします。玉砂利どうしがこすれあう音に、新鮮な感動を覚えました。
次に、立ち止まり目をつむり、何種類の音が聞こえてくるか耳を澄ますように言われました。カラスの声、原宿駅の構内アナウンス、山手線の走る音、アブラゼミとヒグラシの声、梢を渡る風の音、遠くから人の話し声も聞こえてきます。すぐ隣にある原宿駅の音が、明治神宮の樹木によって遮られ、遠くの方に感じられます。騒音ではなく、心地よい音に聞こえるから不思議です。しかも、数分前は我慢できないほど蒸し暑かったのに、木立の中に入ると涼しい風が吹きわたっています。
目をあけて改めてあたりを見回すと、都心とは思えないほどの見事な緑! ナラ、クヌギ、ウメ、ケヤキ……常緑樹、広葉樹、落葉樹、実にさまざまな樹木が生い茂る不思議な杜でした。
宮司さんが、その謎を教えてくれました。明治天皇が亡くなりここに祀る計画が持ち上がったとき、100年後、ここに杜ができるようにと、当時の人たちが考え、全国各地からその土地を代表する木を献上したのだそうです。その数、およそ350種類、10万本。木挽き歌の流れるなか全国の青年団の奉仕によって、この地に運ばれ植林されたのだそうです。それが、88年経った現在では、270種類、20万本。東京の気候に合わないものは、自然淘汰されたのだそうです。よく見ると、スギやヒノキは少なく、クスノキやシイ、カシの木が目立ちました。見上げると、しだいに藍色に染まっていく夕空を、風にそよぐ木の葉が縁取っています。
植林された頃の写真を見ると、大鳥居が天を突くようにそびえたち、申し訳なさそうに木が立っていました。今では鳥居の数倍もの高さにまで伸び、枝を広げ鳥居をすっぽり包み込んでいます。100年後を見据えた先人たちの熱い思いが、今も脈々と樹木に流れていることを実感しました。
100年後にむけて、今私たちがしなければならないことは……!? 明治神宮の杜に問いかけられたような気がしました。