小学生に本の面白さを教えてほしいと頼まれ、何を読んだらいいか友人に相談したら、「おこんじょうるり」という民話を薦められました。浄瑠璃をうなる不思議な狐"おこん"と、目が見えないイタコの"ばばさま"の物語です。健気なおこんの姿に涙がこぼれ、一遍でこの本が好きになりました。
いよいよ小学校の体育館で全校児童を前にお披露目です。子どもたちが私を取り囲むように床にすわり、じっと私を見つめています。その表情をうかがい、視線を捉えながら読み始めました。お喋りしていた子も、ぐいぐい物語に引き込まれていくようすが分かりました。読み終わると、目を真っ赤にしている子もいました。後日いただいた感想文には、「おこんが死んでしまったとき涙がでた」「本っておもしろいと思った」「おこんのような人になりたい」……などと書かれていました。
このときから、朗読や語りの魅力に取りつかれました。文字という記号が、声に出すことによって、フワッと立ち上がり命を吹き込まれ、聴く人に向かっていくような気がするからです。その時の体調や気持ちのありようによって、また聴いている人によっても毎回読み方が変わります。同じ語りは、ふたつとないのです。
山形県で講演した際、友人が経営する老舗旅館で「おこんじょうるり」の朗読会をしました。今度は、地元の方や宿泊客など大人ばかりです。私は、ときには"ばばさま"に、ときには"おこん"になりきって語りました。ふたつの命が宿っているような感覚で、読み終わったときには、心地よい疲労感を覚えました。ひとりの男性が声をかけてきました。
「読み聞かせってよく耳にするけれど、どんなものなのかなと思って来てみたんですよ。びっくりしました。感動しました。泣いちゃいけないと思って我慢してたけど、周りをみたら泣いてるから、ああ、泣いていいんだと思って、僕も泣きました。」
先日、作者のさねとうあきらさんに、思いがけずお目にかかることができました。
「おこんも、あなたのような人に拾っていただいて幸せ者です。」
"拾っていただいて"という表現に、さねとうさんの"おこん"に対する深い思いを感じました。私の方こそ"おこん"にめぐり会えて幸せ者です。人の弱さ、ずるさ、そして優しさ、さまざまな面をあわせ持つ民話の魅力を教えてくれました。そんな"おこん"に会ってみたいという方、機会があったら、私の語る"おこん"を聴いてみてください。