地方に仕事に行った時は、講演が終わると着替えて帰りますが、その日は時間がありませんでした。東北新幹線には、トイレの向かい側に小部屋があります。そこを借りて着替えようと思いながらホームで待っていると、「おー、グリーン車かいな。ほんま、ありがたいなあー。」という野太い声が。見ると、関西のベテランお笑いタレントNさんの姿が。人気者なのに、その謙虚な人柄に好感を抱きました。乗り込むとき、Nさんは、「わし、ちょっとトイレ」と言って席に着く前に姿を消しました。
小部屋を開けてもらうため、車掌さんを待つこと10分。なかなか現れないので、とりあえず行ってみましたが、やはり鍵がかかっていました。それじゃトイレで着替えようかとドアを見ると空いていました。清潔で車椅子でも利用できる広いスペースのトイレです。開ボタンを押すと、ゆるゆるとドアが開き、入ろうとしたその瞬間、 「あーっ!!!」
こちらを向いて腰掛けている男性と目が合いました。「ごめんなさいっ。」私が謝るのと同時に、「すんません。えろうすんません。ほんますんませんっ。」という声が。Nさんだったのです。次の瞬間、ドアが開けっ放しになっているのに気づきました。ドアの横にあるボタンを押さないと閉まりません。中から押すには、一旦立ち上がってドアの方まで2メートル程歩かなければなりません。私は、後ろ向きに駆け寄り閉ボタンを押しました。
どうしよう。ごめんなさい。何度も心の中で詫びました。閉ボタンを押すとドアは閉まりますが、鍵はかからないのです。顔を合わせると気まずいので、別の車両のトイレで着替えてから席に戻りました。Nさんは、新聞で顔を隠すように座席に身を沈めていました。着替えたので、ドアを開けたのが私だとはわからないでしょうが、Nさんの心境を思うと冷や汗が出ました。
そして・・・。先日、山陽新幹線に乗ったときのことです。トイレに入り、私は念入りに鍵をかけたつもりでした。ところが、突然ドアが開くではありませんか! 小学生ぐらいの女の子の、驚いて泣きそうな顔が一瞬見えました。慌てて確かめると、鍵は半分までしか下りていなかったのです。ショックを受けながらも、ドアを開けたのが男の人でなくて良かったと安堵しました。
おふた方、驚かせてごめんなさい。あれは、実は私です。皆さんも、トイレの鍵にはくれぐれもご注意を!