箪笥の奥にしまってある黒いレオタード。20数年前、新人アナウンサーの頃、ジャズダンス教室が大盛況という話題を夕方のテレビニュースで中継するために買ったものです。初めて見る自分のレオタード姿。スタジオの男性アナウンサーの呼びかけに、私は思わず、 「こんばんは。きょうは私ちょっと恥ずかしいのです。ご覧ください、このレオタード姿!」 と、言ったことを覚えています。すると、その先輩アナウンサーは、 「ああ、本当に恥ずかしいですねぇ。」 と言うではありませんか! 大爆笑でした。あとのことはよく覚えていませんが、体当たりでがんばっていた頃の大切な思い出のレオタードです。いつか着る機会があるだろうと思い、引越ししたときも新しい箪笥を買ったときも、ずっと引き出しの奥で出番を待っていました。
スポーツは大好きですが、このところ遠ざかっているため、自分の歩き方や姿勢の悪さが気になっていました。そこで、思い切って自宅の近くにあるクラシックバレエの教室に通う決心をしました。夫と息子には、「腰を痛めるからやめたほうがいい」「習ってもいいけれど発表会にはいかないよ」などと言われました。
でも、「思い立ったら、いつでもそこがスタートライン!」やらないで後悔するよりも、やってから後悔するほうが好きな私は、さっそくレオタードを引っ張り出しました。20数年ぶりのレオタード。私はご無沙汰の詫びをいれてから着てみました。ところが、あの頃とは明らかに異なる自分が鏡の中にいるのです! レオタードが縮んだのかなぁ…。一瞬そんな考えが頭をよぎりましたが、そんなはずはありません。私自身が、華麗(加齢)なる変身を遂げていたのです。
こうして、私のかなり遅咲きな(咲く前に枯れてしまうかも!)クラシックバレエ教室通いがスタートしたのです。
どんな様子かって? それはもう、信じられないような世界でした。「足の外側の筋肉を意識して!」と、言われても、どこにそんなものがあるの? という感じで、自分の体なのに、自分の思うとおりに動かないことに愕然としました。若い人にはもちろん、年上の女性の、しなやかで力強く軽やかな動きに、カルチャーショックを受けました。以前、森下洋子さんにインタビューしたとき、「元日以外、レッスンは休みません。体は正直ですから怠ければすぐにわかります。」と、おっしゃっていました。その言葉の正しさが、身にしみて実感できました。
翌日、筋肉痛に苦しんだことは言うまでもありません。四半世紀も経って、やっと出番がめぐってきたレオタードですが、また箪笥に舞い戻って次の出番を待つことになりそうな、厭な予感におびえる私です。