「ミャアオー」 朝、お腹がすいたよと、足下で小さな声が訴えます。クリンとした目が私の顔をじっと見上げています。 「ごめんね、ミルキー。今忙しいの。もうちょっと待ってね。」 その言葉を理解したのか静かに台所を出て行きました。そしてリビングのガラス戸の前にすわり外を眺めています。「猫背」とはよく言ったもので、その流れるような背中の曲線は、実に見事で気品すらあります。
猫のミルキーは11歳。チンチラとシャムのハーフです。友人の所で生まれた猫の赤ちゃんをいただきました。当時幼稚園児だった息子は大喜び。ところが、ミルキーを連れて帰る車中でのこと。息子が突然くしゃみを始めました。目がかゆくなり真っ赤に腫れて、くしゃみが止まらなくなりました。猫アレルギーをおこしてしまったようです。私も息子も杉花粉アレルギーなのですが、まさか猫にまでアレルギー症状をおこすとは!苦しそうなようすを見て私は、猫を飼うのをあきらめようと言いましたが、 「いやだー! ミルキーは友達だー! アレルギーなんかじゃない!」と、息子は大泣きしながらミルキーを抱きしめ離しませんでした。
それから1週間。息子は毎日目を真っ赤にし、くしゃみしながらもミルキーをかわいがり、我が家の1日はミルキーを中心としたものになりました。いつしか息子の猫アレルギーは治まっていました。
ちょこちょこと家の中を走り回っていたミルキーは、今はおばあちゃん猫になり昼寝ばかりしています。今年私は、1月下旬頃から猛烈に目が痛がゆくなりくしゃみが出て、仕事にも影響するようになりました。今年は杉花粉は少ないというのに、なぜこれほどつらいのだろうとお医者さんに相談しました。再度アレルゲン(アレルギーの原因)を調べることになり、杉・檜・萱・稲・ハウスダスト・そして猫も一応検査項目に入れました。体調が悪いとアレルギーが出ることもあるのだそうです。
その夜、「猫アレルギーだったらどうしよう!?」と私が言ったら、息子と夫ふたり同時になんのためらいもなく言いました。 「ママが出て行くしかないね。」 「君が出て行くしかないよ。」 ミルキーを手離さなければならなくなったらどうしよう!と、心を痛めていた私は、浅はかでした。
結局、私は家を出なくてすみました。でも、相変わらず春と秋は苦手です。しかも、なんと!ミルキーまでも、この春は涙目になり、くしゃみを連発しました。私がアレルゲンだったらどうしよう!? 密かに気にしている私です。