保育園で講演した時のことです。女性達のなかで熱心に耳を傾けている男性がいました。気になって尋ねたところ、「今、主夫をしてます!リストラされちゃって。仕方ないので家事をしていたら、だんだんおもしろくなって、ああ、子どもはこんなふうに喜ぶんだって。女房は公務員で安定しているので、この際逆になって僕が主夫しています。」そう!人それぞれさまざまな生き方があっていいはずです。 「男女共同参画社会」をすすめるためのひとつの考え方に「ジェンダーフリー」という言葉があります。ジェンダーというのは、「女らしさ」「男らしさ」というように、社会的に「女(男)はこうあるべき」と作られた概念のこと。たとえば、「男は一家の大黒柱でなければならない」「女の子だから赤い色」というような意識です。そういった性による差別を取り払おうというのが「ジェンダーフリー」です。でも、男女が同じになれるはずがない。体だけでなく脳の仕組みも、男性と女性では違うのだから難しいという意見もあります。 私は、無理に「男(女)らしさ」を否定する必要はないと思っています。ただ、自分がなにかをしたいと思った時に、いわゆる「らしさ」が手かせ足かせになっていたとしたら、それを捨てて楽になることが大切なのではないでしょうか。そして新たな自分に出会えたら、素敵だと思いませんか? 岩手県釜石市で「男女共同参画社会」について講演した時、主催者代表で挨拶した女性は、緊張のあまり震えていました。原稿から一度も顔をあげずに表情はこわばったまま。舞台の袖にひきあげてきたその人に、「ご苦労様でした。大変でしたね。」と声をかけたら、しゃがみこんでワァッと泣き出してしまいました。そして、その日のために新調したスカーフで涙をおさえて一気に話し出しました。 「初めてのことで、心配で心配で一週間眠れなかったんです。これまでずっと野良仕事して、年寄り相手に野菜を売ることしかしてこなかった私が、舞台の上で話すなんて考えられないことなんです!」 彼女にとってこの日は、どんなに大きな一歩だったことでしょう。大勢の人の前でうまく話せるだろうか、女のくせに生意気だと思われないだろうか……。多くのためらいがあったに違いありません。でも、それらを乗り越えて、新しい自分に向けての一歩を踏み出したのです。私が帰る時、彼女は晴れやかな笑顔で手を振っていました。 さあ、あなたも「はじめのいーっぽ!」