先日開かれた健康に関するシンポジウムで、俳優の藤木悠さんにお会いしました。映画やテレビドラマ「Gメン'75」など数々の作品に出演されています。俳優生活50年。背が高く相変わらずダンディでしたが、驚くほどスリムになっていました。それもそのはず、15年前に糖尿病を宣告され地獄のような闘病生活を味わったのです。藤木さんは、こんなお話をしてくれました。
撮影中に草履で足の指がすりきれてしまいました。すぐに治るだろうとタカをくくっていたところ、益々ひどく腫れあがってしまったので、慌てて病院に行ったのだそうです。外科から内科に回されそのまま入院。かなり悪化した「糖尿病」と診断されました。
毎晩あおるようにお酒を飲み、朝からステーキをたいらげるような食生活をしていたツケが回ってきたのです。足は化膿して切断しなければならない状態でした。糖尿病は、ほとんど自覚症状がなく気付いた時には手遅れで、合併症による網膜症で失明したり足の切断を余儀なくされたりします。藤木さんは、「足を切られたくない!死んでたまるか!」という一心で、大好きだったお酒をやめました。食事もカロリー計算し、10年かかって体重も10キロ減らし、仕事にも復帰できました。努力の甲斐あって足は奇跡的に切らなくてすみました。が、足の親指は壊疽のため溶けてなくなってしまいました。
ところが、その後信じられないことがおこったのです。なんと、親指が生えてきたのです!「まるでトカゲのようだ」と、お医者さんも驚き写真を撮ったそうです。赤ちゃんの指のように小さなものですが、今では爪も生えてきました。
「この歳になって爪を切ることの喜びを知ったよ。」かつてのアクションスターは、そう言ってカラカラと笑いました。
そういえば、友人が同じようなことを言っていました。仕事中に右手の中指を潰してしまい、指先を失ってしまいました。彼はギターを弾くことが趣味でした。爪がなくなってしまったから、もうギターが弾けないと絶望したそうです。でも、「なんとしてもまたギターを弾きたい!」という思いで、痛みをこらえて、その指をなるべく使うようにしていたところ、ある日、爪がはえてきたのです。少し短い指先に命を宿したその爪で、再びギターの弦を弾けるようになった時は、涙がでるほど嬉しかったと言っていました。
必死な思いは、指先や爪にも届き、トカゲも顔負けの再生能力を発揮するのです。人間、捨てたもんじゃありません。