「日本語の母音の『ア』は、口を縦に開けるようにしましょう。意識しないと、省エネ型発音になって『エ』の口で『ア』と言うようになってしまいます。歩き方も意識しないと足が上がらず、つまずきやすくなってしまいますよ。手抜きをしないことが大事です」このように常々私は話していますが、それを実感する機会がありました。
NHK文化センターの「大人のための話し方レッスン」の受講生の女性が、あるとき「ウォーキングインストラクターの資格を取得したので、いつか教室が持てたらいいなと思っています」と、夢を語ってくれました。でも、人前で話すのが苦手なので、話し方を勉強して自信が持てるようになりたいというのです。以前から私は歩き方を習いたいと思っていたので、ウォーキング教室を企画してみたらどうかと提案しました。人前で話すとき、眉間にしわが寄る癖も治ったし、滑舌も良く、皆の顔を見て話せるようになったので大丈夫だと思ったからです。1か月後、スタジオを借りてウォーキング教室を開催することになりました。
私は夫や友人を誘って、張り切って参加しました。壁一面が鏡になっているスタジオに、お腹まわりが気になる年齢の人たちが集合。鏡に映ったわが身の姿勢の悪さに愕然としながらレッスン開始。先生は、少し緊張気味のようでしたが、スッと背筋を伸ばし、立ち姿も素敵でした。正しい歩き方のコツをていねいに教えてくれました。かかとから床に降ろし,弧を描くようにゆっくりと体重を前に移動しながら、もう片方の足を前に出し、かかとをつけて同じように体重移動して、ゆっくりゆっくり歩くという練習を繰り返しました。たったこれだけのことなのに想像以上に大変でした。ふらついてしまうのです。腹筋も常に意識していないと上手に歩けません。普段、いかにいい加減に歩いているのか反省しました。私の隣で練習していた男性は、汗だくになりながら、一歩足を前に出すごとに息が荒くなり、運動不足だと苦笑いしていました。歩く練習でこれほど疲れるとは驚きです!
意識しないと、声は小さくなり発音が曖昧になるのと同様に、歩き方もいつの間にか手抜きしていることに気が付きました。料理で皮をむくときも、ピーラーより包丁を使った方が脳は活性化します。メールよりも手紙を書く方が、やはり脳は活性化するのだそうです。体や脳に負荷をかけること、面倒だなと思うことこそ、じつは大切なことなのですね。さあ、きょうもしっかり歩きましょう!