「油断して 今年もひとつ 歳をとり」
パッと差し出した本の表紙の裏に、お酒を飲んでご機嫌なご自身の姿とこの句を書いてくださったのは、作家の嵐山光三郎さんです。執筆のためには、徹底して文献を読み解き、身を挺して取材する嵐山さんの文章は(私が言うのはおこがましいのですが)じつに軽妙で、声に出して読むと面白いということに気がつきました。男性が読んだ方が味わいのある内容が多いのですが、女性が読んでも心地よいと感じる本がありました。お母様のことを書いた『おはよう!ヨシ子さん』です。当時91歳で俳句作りが趣味のヨシ子さんの日常を、嵐山さんの目線で描いたものです。さっそく朗読教室の教材として講座で読むことにしました。
内容をちょっとご紹介。ヨシ子さんのお友達は、みな88歳以上の高齢者。時々リュックを背負って循環バスに乗ってでかけるそうです。今で言う“女子会”です。ランチの後は、デパートに行きここは見るだけで、近くにある衣料品の安売り店に入ると、とたんに購買意欲がわき「歳をとるとピンク色が似合うのよ」と言って、みんなで派手なセーターを買いリュックに詰めて帰ってくるというのです。「そう、そう、わかる、わかる!」と女性陣が頷くシーンです。
嵐山さんの弟のマコトさんが、ヨシ子さんの俳句作りのために車に乗せてお出かけした時のことです。いい景色の所へ行くたびに、俳句できた?と聞いたそうで、ヨシ子さんを送り届けてきたマコトさんに「句っていうのは屁みたいにプープー出るもんじゃないよ」と嵐山さんが言うところがあり、ここは思わず吹き出しそうになります。読み手の力量が試されるところです。
また、9月に入っても残暑が厳しく、ヨシ子さんが暑くて出かけられないから自宅にいると余生の句ばかりできると嘆いていたら、句会の先生に「余生っていうのは92歳すぎです」と言われ、途端に力強い句をつくるようになったというエピソードもあります。読み手まで元気になってきます。
そんな『おはよう!ヨシ子さん』を、この夏東京の国立市にある老舗の喫茶店「白十字」を借りきって朗読会を行うことにしました。嵐山さんもお越しくださいます。張り切って練習していたら、なんと、ヨシ子さんも車いすでいらっしゃるというご連絡が入りました。ヨシ子さんは今年100歳!好奇心旺盛に生きることが長寿の秘訣なのですね。ありがとう!ヨシ子さん。お会いできることを楽しみにしています。