「発表会は、日常では味わえない緊張感を体験できます。新たな自分に出会える場ですよ」と、私はいつも話しています。NHK文化センターやNHK学園など、私が講師を務める話し方教室、朗読教室の発表会を、先日東京の杉並公会堂で行いました。
人前で話すことを想像しただけで緊張し気分が悪くなってしまうという女性は、最初の発表会では、講座の仲間たちと一緒に絵本の朗読をしました。2回めは二人で朗読をしました。今回は、覚悟を決めてひとりで舞台に立ち、心境を語ることにしました。過去のトラウマで人前に出ると震えてしまう、そんな自分と決別するために教室に入ったのに、いきなり自己紹介をするように言われ、びっくり! いつ辞めようかと悩みながらも続けてしまい、今こうして一人でマイクを持つことができるようになった。そして、自分のことを話すのが、ちょっぴり楽しくなったと話してくれました。
朗読教室のある女性は、私が初めて書いた『テレビのなかのママが好き』という本の1節を朗読してくれました。アナウンサーになりたての頃、ラジオのスタジオで「こんにちは」という挨拶が上手に言えず悩んだことが書かれていました。あの頃から、心をこめて挨拶をすることが温かい人と人とのつながりを作っていくという強い想いがあったのだと、思い起こさせてくれました。このエッセイのタイトルも、そこからつけたのです。
別の女性は、本誌の連載から60編を選び昨年秋の芸術祭参加公演に合わせて作った※『こんにちはに心をこめて』というエッセイ集から、「おばあちゃんの世間話」を朗読してくれました。90歳半ばの祖母は認知症で介護施設に入所していました。施設の回廊を私が手を引いて歩いていたら、車いすで反対周りをしているお爺さんとすれ違い、そのつど二人は初めて会ったようにニコニコしながら挨拶を交わしているという内容です。朗読した女性は70代。セリフが上手でした。司会をしながら舞台の袖で聴いていたら、祖母との思い出が次々と蘇り目頭が熱くなりました。自分が書いたものを他の人が読み、それを聴いて感動するという、私にとっても初めての経験でした。
人前で話す、しかもステージでライトを浴びて……。皆逃げ出したい緊張を胸に、勇気を振り絞ってステージに立つのです。日常から離れた体験がどんなに生きる力になることか! それは、終わった後の達成感と高揚感にあふれた顔が雄弁に物語っています。