NHKでニュース番組を担当していた時、栃木県で紋次郎という種牛の精子が盗まれたというニュースを伝えたことがあります。大事件なの!?と疑問に思ったものですが、ニュースデスクが、いかに価値のあるものか、和牛について解説してくれました。
そのことを思い出させてくれるイベントが1月に行われました。「第1回和牛甲子園」、正式名称は「全国農業高等学校和牛枝肉共励会」です。高校生に日ごろの取り組みを発表してもらい、飼育牛の肉質を競うというものです。その司会を担当しました。
2日間にわたって行われる和牛甲子園、全国から15校、合わせて53人の高校生が参加しました。開会式の後、高校生によるプレゼンテーションが始まります。和牛を飼育するにあたり、どんなことを心がけているか発表するのです。持ち時間は10分間。静まりかえった会場で、高校生が緊張していないか心配でした。でも、杞憂に終わりました。彼らは、大きな声で堂々と発表していました。
スクリーンに映し出された牛の名前の紹介から始まり、牛がケガをしないように床を弾力性のあるものに替えたり、毎日ブラッシングして牛の健康状態をチェックしたりしていることなどが紹介されました。餌の藁や干し草を自分たちで作っている学校もあれば、フンを肥料にして牧草地にまくという循環型飼育に取り組んでいるところもあります。エサの食べ方やフンの観察は大事な日課です。神経質な牛もいれば甘えん坊の牛もいます。肉質を良くするために餌も工夫しています。毎日牛と触れ合っていたら、クラスメイトのような存在になったという学生もいました。手放さなくてはならない時、トラックに乗りたくないと牛が嫌がり、その牛の目から涙が流れたのを見て、自分たちも泣いてしまったという言葉には共感しました。命の誕生に感動したと話してくれた高校生もいました。酪農家を訪ねアドバイスをもらうなど、牛を通して様々な人とのつながりができたことも大きな収穫です。命と食の現場に携わっている自分たちが頑張ることによって、日本の農業も元気になるという頼もしい言葉に、拍手を送りました。最優秀賞に輝いたのは、岐阜県立飛騨高山高等学校でした。3年生は、酪農関係に進むことが決まっているそうです。
和牛は、世界でも注目される食材になっています。和牛甲子園に参加した高校生の熱意あふれる言葉一つ一つに、日本の酪農の明るい展望を感じることができました。