「昔々、釣りに夢中で働かない金兵衛という男がいました。ある日金兵衛が芝瀬川で釣りをしていたら一人の男が現れ、その男が鼻をこすると鼻がぐんぐん伸びて天狗になってしまいました……」
こんな内容の紙芝居を見る機会がありました。静岡県の「富士宮市地域女性連絡会」手作りの紙芝居です。絵も自分たちで描いたというので楽しみにしていました。私は読み聞かせや紙芝居のコツも教えているので、気になるところがあったら実演して差し上げようと張り切っていたのですが、その必要はありませんでした。秀逸だったのは、吉兵衛が天狗に遭遇した時の叫び声です。「ぎゃあ~~~!」迫力ある声に聴衆もびっくり! 本当に驚かないと出ない声です。後ろにのけぞり、目を見開き両手を挙げて口を大きくあけないと出せない叫び声でした。
今回の紙芝居は、33作め。地元に伝わる民話の舞台を訪ね、自分たちで物語をまとめ15枚の絵に仕上げました。この紙芝居は、依頼があれば上演するし、貸し出しもしています。昨年は小学校などで70回程公演したそうですが、小学生から「おばさんたち、絵が上手だねー!」「セリフがうまいね!」と褒められたこともあるそうです。福祉施設では、紙芝居をすると言ったら認知症の方も目を輝かせて聴いてくれたそうです。
「富士宮市地域女性連絡会」が誕生して32年、会員数は270名ほどで、子育てが一段落した60代以上の方たちが中心になって活動しています。紙芝居の他、富士宮市内に100か所以上ある「寄り合い処」で、お茶を飲みながら交流し居場所作りにも力を注いでいます。声を掛け合うことが、地域のなかでの孤立を防ぐことになるからです。そうした寄り合い処で、「僕らのところの紙芝居も作って欲しい」とリクエストをいただくこともあるそうです。
会長の土屋善江さんは、42年前に引っ越してきて、すぐに当時の婦人会活動に参加し今に至っています。紙芝居を上演し、地域の皆さんに喜んでいただくことが、自分たちの元気の素だとおっしゃいます。年じゅう家を空けているのに、文句を言わない80歳のご主人には本当に感謝しているとも、おっしゃいました。会員数減少が悩みの種ですが、「孫にも紙芝居を見せたい」という会員の想いが受け継がれ活動を支えています。土屋さんを始め、明るく元気な女性たちのエネルギーが富士宮市の地域社会を支えていると感じました。