10年ほど前のこと、講演のなかで子育てについて話したことがありました。私の場合、仕事をしながらの子育ては両親の助けがなかったらできなかったと語ったのです。すると、いきなり怒鳴り出す男性がいました。
「なんで孫の話なんかするんだ! うちには孫がいない! わかるかこの気持ち!」
立ち上がって叫ぶ男性を、隣に座っていた人が「落ち着いて」と言って座らせました。突然のことで驚きましたが、孫のいない寂しさを憤りをもって私に伝えたかったのだと思い、講演するときはさまざまな人がいるので配慮しなければと胆に銘じました。
カルチャースクールでも「きょうは孫が来るのでお休みします」という連絡をよくいただきます。可愛い孫の話で場を盛り上げてくれる女性もいる一方で、「うちにはまだ孫がいないから……」「息子が結婚しないから孫の顔は見られないわ」と、おっしゃる方もいます。近頃は結婚しない人も増え、価値観が多様化し、家族の在り方もさまざまです。
そうは言っても、やはり命の誕生はこの上ない喜びです。じつは、私にも孫ができました。この半年間で最も忙しい1週間が始まろうとしていた日曜日の深夜、息子から、陣痛が始まったので入院するというメールが届きました。息子がずっと付き添い、一緒に「ヒーヒーフー」と習った呼吸法をし、一緒にいきんで無事に生まれたそうです。生まれた瞬間、息子は涙目だったとお嫁さんが言っていました。
誕生して二日目、仕事を終えて疲労困憊だったのですが病院に行きました。病室には、小さな小さな赤ちゃんがいました。こんなに小さかったかしらと戸惑ったくらい、久しぶりの赤ちゃんです。抱っこしたら、疲れも吹き飛び、ずっと抱っこしていたいと思うほど愛おしさがこみ上げてきました。息子にそっくりな男の子です。
私が出産したとき、両親もきっとこんな気持ちだったのでしょう。独りきりの孫でしたが、慈しんで育ててくれました。当時、実家には祖母がいて年寄り3人暮らし。孫が誕生してからというもの、泣いたと言っては3人が集まり、笑ったと言っては3人で喜び、活力の素でした。特に祖母は、膝が痛くて歩けなかったのに、ひ孫をベビーカーに乗せて近所を歩きたいという一心で歩き始めたのです。お医者さんでも治せなかったのに、赤ちゃんの力は偉大です。
これからは、「おばあちゃん」と呼ばれることになるのでしょうが、孫の誕生は、やっぱり嬉しいものです。生まれてきてくれて、ありがとう!