「ラクナ梗塞があります。年齢の割に多いので気になりますが、血圧が低いのでようすをみることにしましょう」。
数年前の脳ドックの結果です。脳の毛細血管が詰まる、日本人に最も多いタイプのラクナ梗塞があることがわかり、それ以来野菜を心がけて食べ、務めて歩くようにしています。
先日、弟に電話をしたのですが応答がなく、夕方になって電話がありました。声がいつもと違います。
「今どこにいるの?」
「…びょういん。…ノウコウソクだって。これからにゅういんする」
質問する間もなく電話は切れてしまいました。弟夫婦は数日前に温泉旅行をし、帰宅した翌日、弟はゴルフに行くと言っていました。
半信半疑で病院に行くと、チューブをつけられ点滴をしている痛々しい姿の弟がいました。体がだるいのにゴルフに行き、右手の感覚がおかしいと思いながらも、一晩寝れば治るだろうと思ったそうです。7月半ば、連日の猛暑がニュースになっていた頃のことなので、熱中症かもしれないと思ったのでしょう。ところが、次の日も体の不調は続き、それでも会社に行き、発症してから3日めに自分で車を運転して病院に行ったそうです。右側の手足の動きが悪く、ろれつが回りません。脳の太い血管が詰まってしまうアテローム血栓性脳梗塞です。弟はまだ50代です。母が生きていたら、きっと泣いたに違いありません。事故を起こさなかったことが、せめてもの救いです。
「お綾(あや)や 親に お謝(あやま)りなさい」弟の顔を見るなり、私は滑舌の練習を始めました。
たった一人の弟です。絶対に元気にしてあげなくては! 右側の唇の動きが悪いので、水を飲むと右の口元から水が垂れてしまいます。でも2週間ほどしたら、きれいに飲めるようになり、笑うと右側の口角も少し上がるようになりました。「良かったねー」病室に笑い声が弾けます。思うように字が書けない、歩けないと落ち込むこともあるでしょうが、弱音を吐かず、いつもニコニコしている弟には頭が下がります。弟は幼いころから不器用でしたが、頑張り屋さんでした。
今年の夏は40度を超えた日もあり、熱中症で亡くなった方もいらっしゃいます。熱中症と脳梗塞は症状が似ているので、脳梗塞なのに熱中症と診断され手遅れになってしまった人もいるそうです。義妹は毎日仕事の帰りに病院に行き、励ましています。弟が社会復帰できるように家族でサポートしていこう! 暑い季節は間もなく終わりますが、弟の熱い戦いはこれからが本番です。