きんちゃく袋の真ん中のボタンを押すと「ワッハッハ ワッハッハ ワーッハッハー」と豪快な笑い声がきこえてくる笑い袋をご存知でしょうか? 30年ほど前に流行ったのですが、笑い袋の声の主はあなただったのですか!?と思った方がいらっしゃいます。Fさんです。
70歳をすぎたばかりのFさんが、NHK学園の話し方教室に入ってきたのは10年ほど前のことです。立派な体格で大きな声、アニマル浜口さんを思わせるような明るい元気な方でした。それもそのはず、1級ラジオ体操指導士の資格をお持ちで、ラジオ体操の楽しさを折にふれ教えてくれます。大勢を前にして模範演技をする時は、皆と反対の動きをしなければならないことや、冬の朝は辛いけれど、毎朝のラジオ体操が健康の秘訣だとおっしゃっていました。
歌も得意で、お年寄りの施設に出向いては、歌ったり踊ったり紙芝居をしたりとボランティア活動にも精を出していました。弁士のような語り口の紙芝居は絶妙で、昨年秋の発表会では「愛染かつら」を披露していただきました。ヒロイン高石かつ枝や6歳の娘の声も一人で演じます。必死で可愛らしい声を出すのですが、それが面白くておかしくて大笑いしました。皆を笑顔にしてくれる才能がありました。
1月に映画音楽の演奏会があり、主催者から何人でも招待するので人数をお知らせくださいという申し出があり、講座の皆さまに声をかけたら、Fさんから31人もの申し込みがあり、びっくりしました。さすがに顔が広いと感心していたら、演奏会の2日前に奥様から、Fさんが今朝亡くなったという連絡がありました。いつものように早朝ラジオ体操に行き、帰宅してお風呂に入ったら、そのまま亡くなってしまったのだそうです。演奏会に誰が来るのかわからないというので、事情を主催者に伝えたら、Fさんは、そのホールのボランティアスタッフをしていたというので、また驚きました。ホールの人も「あの元気なFさんが!」と、突然の訃報にショックを受けていました。以前、地域活性化のためにホールのお手伝いをしたいと研修会に参加したと言っていたことを思い出しました。往年の映画音楽やヒット曲がたくさん演奏され、会場を巻き込んでの楽しい企画もあり、笑い声に包まれた演奏会でした。Fさんの大きな笑い声も聞こえたような気がしました。
笑い袋の声は、声優の肝付兼太さんだそうですが、私たちにとってはFさんです。「ワーッハッハ」という声とFさんの笑った顔が浮かんできます。