「お義母(かあ)さん、聞いてください!このところ、ずっと毎晩終電で帰ってくるんですよ。仕事が忙しいのはわかるけれど、この前の土曜日なんて、夕飯の後、同期の仲間が集まっているから来ないかと電話があって、ちょっと行ってくるっていったまま帰ってこないんですよ。たまには、子どもをお風呂に入れてくれてもいいのに……。」
生まれて半年ぐらいの赤ちゃんは、かわいいけれど、一人で世話するのは大変です。ストレスもたまり、愚痴の一つも言いたくなります。本当にダメな息子だと頷きながら、心の奥がチクッと痛みました。同じようなセリフを義母に言っていた自分を思い出したからです。
夫は静岡県で生まれ育ちました。3人の姉に弟がいます。4人めでやっと男の子が生まれ、両親は大喜びしたことでしょう。その待望の長男は大学入学と同時に東京へ行ってしまいました。就職してからは「定年退職したら、戻ってくればいいよ」というのが、義母の口癖でした。結婚前、私はSBS静岡放送に勤め、夕方6時からの「テレビ夕刊」という番組を担当していました。義母はテレビに出ているアナウンサーが息子の嫁になると喜び、犬の散歩を切り上げて番組を見てくれました。遊びに行くと、得意のエビフライと茶碗蒸しでもてなしてくれました。可愛がってくれました。帰る時、寒いからこれを着ていきなさいと毛糸のカーディガンやセーターを貸してくれました。何枚のカーディガンを借りたことでしょう。結局返さないままになってしまった物もあります。
夫は、若い頃はヘビースモーカーでした。バブルの頃でしたから、毎晩お酒を飲んで帰ってきました。それが原因でよくケンカをしました。義母に会うたびに、夫の文句を言ったものでした。義母はいつも私の味方をしてくれました。嫁姑問題が起こらなかったのは、義母が私の言うことをすべて受け入れてくれたからでしょう。子どもが生まれてからは、夏休みとお正月には夫の実家に里帰りしました。なかなか会えない分、孫をたくさん抱っこしてくれました。
私に孫ができて初めて、お義母さんに寂しい思いをさせていたなと痛感しています。義理の弟一家が近所に住んでくれたので、二人の孫の世話に明け暮れたのが、せめてもの救いです。息子や孫にもっと会いたかっただろうな……。そんなことはひと言も言わず、いつもニコニコ迎えてくれた義母は、数年前に他界しました。お義母さん、息子の悪口言って、ごめんね。もっと頻繁に会いに行けば良かったな……。