「クシュッ!」 小さなくしゃみの音が……。なんて可愛らしいくしゃみ! ふだん近所に響き渡るような夫のくしゃみばかり耳にしている私にとって、孫のくしゃみは新鮮でした。くしゃみをすると、一瞬動作が止まり、何があったのだろうという顔で目が合います。その表情も可愛らしいのです。透明な鼻水がスーッと垂れています。柔らかいティシュペーパーやガーゼで拭こうとするのですが、嫌がって首を左右に振り拭かせてくれません。やっとお座りできるようになったばかりの赤ちゃんのどこにそんな力があるのかと思うほど嫌がります。顔を押さえて拭くと、火が付いたように泣きます。「ごめんね、ごめんね」と謝るのですが、すぐに泣き止むところも赤ちゃんの良いところです。久しぶりに息子夫婦にベビーシッターを頼まれ、赤ちゃんが風邪をひくと大変だということを思い出しました。
わが子が生後3か月の頃、私の風邪が息子にうつってしまったことがありました。赤ちゃんは基本的に鼻呼吸なので、鼻が詰まると苦しそうです。鼻水吸い取り器を買って試したのですが、なにしろ鼻の穴は小さく、どこまで差し込んでよいものかわかりませんでした。そこで、お医者さんに連れていくと、「お母さん、あなたが吸ってあげるのが一番だよ」と、言われました。家に帰り、さっそく試してみました。ニコニコしながらわが子を抱き、おちょぼ口を作り顔の真ん中に当てて思いきり鼻を吸ったのです。次の瞬間、息子は両目を見開き、両手両足をパッと広げてギャッと泣きました。驚いたようです。鼻水を吸い出すことはできません。何度やってもダメだったので病院に電話したら、鼻は、片方ずつ吸うのだと教わりました。「お母さん、両方とも吸われたら大人だって目をむくよ!」と言われ、大笑いしたことがありました。もう30年も前の事ですが、息子に悪いことをしたなと思ったことを覚えています。
2日続けて孫の世話をしたら、孫から風邪をもらったようで、私も鼻がつまり鼻水も出るようになりました。花粉症もあいまってしばらく苦しい状態が続きましたが、大人は鼻をかむことができます。これは幸せなことだと実感しました。
抱っこして洗面所に連れていき蛇口をひねると、目を丸くして見ているので、そのすきに指をお湯でぬらして鼻水を取ってあげると泣かないということを、ママから教わりました。試してみたら、うまくいきました。「ハーックショイ!」また、階下から夫のくしゃみが聞こえました。