8月中旬、真夏の日差しが容赦なく照り付けるお昼前、私は仕事に向かいました。朝ごはんもしっかり食べ、日傘もさして、時間に余裕をもって家を出ました。一歩外に出たら、日差しがことのほか強く感じられました。遠くからバスがやってくるのが見えました。バスに乗らなくても間に合うのに、冷房の効いた車内を想像したら駆け出していました。バスは信号で止まることもなく、すいすい向かってきたので、私は全速力で走らなければなりませんでした。バス停にいる小さな男の子と父親が、私を見つけて手招きしていたからです。100m程、私は必死で走りました。
すると、乗ったとたん猛烈な頭痛に襲われました。息切れしているからだと思いましたが、こめかみのあたりがずきんずきんと、波打つように痛みが走ります。吐き気もしてきました。熱中症!? 体が重く、歩くのも億劫です。やっとの思いでバスを降り、JR線のホームにある冷房の効いた待合所のいすに座りました。 持っていたお水を飲みほし、自動販売機で経口補水液を買い、しばらくの間じっとしていました。何本か電車をやり過ごし、仕事をキャンセルするわけにはいかないので電車に乗りこみました。幸い少しずつ頭痛は軽くなり、吐き気も治まってきました。
いつもは立ちっぱなしの講演も、頭痛がするたび、いすにすわるようにしました。いつものようによく口が動くから大丈夫だと思いました。「自分の考えを、滑舌よく話すことができる」、これが私の健康の目安なのです。帰宅してからは、保冷剤を手ぬぐいで包み首を冷やし、経口補水液を飲み、ひたすら横になっていました。翌日もフラフラするので、首を冷やしながら仕事をしました。私の周りでも、この夏は熱中症にかかってしまった方が多く、朝起きたらめまいがして吐き気もするのでメニエール病だと思ったら熱中症だったとか、自宅で麦茶を飲みながらおしゃべりしていたら気持ちが悪くなり、これが熱中症だったとか……。元気だと思っていても、突然熱中症になってしまうのですね。熱中症は他人ごとではありませんでした。
200mぐらいは走れるから大丈夫!と、来年のオリンピックの聖火ランナーに応募しようと目論んでいたのですが、その夢は諦めました。東京23区内で今年7月1日から8月18日までの間に、熱中症で亡くなった方が100人を超えたそうです。来年の東京オリンピックのチケットが当たらなかったから言うのではありませんが、エアコンの効いた室内でのテレビ観戦が一番だと実感しました。