「理事長、理事長、理事長!」「……あ、私のこと!?」これまで「理事長」などと「長」とつく名前で呼ばれたことはありません。初めていただいた肩書に戸惑っています。
ひょんなことから、「八王子市学園都市文化ふれあい財団」の理事長をさせていただくことになりました。芸術、文化、スポーツの振興、学園都市の推進、そして18館ある市民センターを通して地域社会の発展に尽くすことを目的に設立された財団です。常勤ということで、健康保険にも加入しました。数十年ぶりの就職です。理事長としての新入職員生活がスタートしました。
「ここが理事長室です」。案内された部屋は広く、大きな机の上には、「未決」「既決」と書いた箱が置いてあります。新型コロナウイルスの影響でコンサートやイベントなどは中止。職員はチケットの払い戻し作業などに追われています。大変な時に理事長に就任してしまったと感じました。頼りない人が理事長になって困ったなと、思われていたらどうしよう。「任せなさい」とも言えない代わりに「不安です」と言うわけにもいきません。経験も力もない私にできることは、まず組織を知り、職員の顔と名前をおぼえることでしょう。ところが、このご時勢、歓迎会はありません。しかも全員がマスクをしています。口元は表情を作るうえで大きな役割を担っています。笑顔で話してくださっているのだろうけれど、大きなマスクで口元が覆われていると表情がよみとれません。昼食時を除き、全員がマスクをしている中で、顔と名前を覚えるのは至難の業です。
長年理事として関りを持たせていただいた財団ですが、中に入ってみると、同じ仕事をしていても立場によって賃金に格差があることがわかりました。これでは、虚しい思いをしている人もいるでしょう。でも、秋には、正社員を希望する嘱託の人は全員正社員になれると聞いて、ホッとしました。皆、仕事にやりがいを感じているといいな、職場に来るのが楽しいと思っていたらいいな……。ひとりひとりに聞いてみたくなります。
「生きることは居場所をつくること。その居場所で生きがいを感じることができれば、人は生きていける」これまで話し方教室などでお伝えしてきたことを、今私が実行する時です。心地よい居場所をつくるために言葉という道具を使わなければ! まずは、気持ちよく挨拶をするようにしよう。そして、ひとりひとりの声に耳を傾けるようにしよう。NHKで首都圏向けのニュース番組のキャスターをすることになった時、番組責任者が、「キャスターというのはおみこしの上に乗っているようなものだよ。大勢のスタッフがあなたを担いでいるのだから、感謝の気持ちを忘れたらだめだよ」と、おっしゃいました。この言葉は宝物です。頼りない理事長ですが、感謝の気持ちを忘れずに、笑顔でがんばります。皆さん、よろしくお願いします。