緊急事態宣言で自粛生活を送っていた5月半ばのことです。買い物から帰ったら郵便局の不在票が入っていました。人手不足で再配達できないと書いてありました。翌朝郵便局に行ったら、案の定長い列ができていました。皆1mほど距離をあけて並んでいるので、局舎の外の階段の下まで列が伸びていました。5月だというのに夏日で蒸し暑く、マスクのために息苦しくもあり、だんだん苛立ってきました。しかもトラブルがあったようで前に進まなくなってしまいました。「おい、時間かかりすぎだよ!」という男性の声が聞こえます。やっと私の番になりました。不在票と運転免許証を提示し印鑑を手にしてサッと受け取れるように準備しました。ところが、窓口の女性は延々と不在票と免許証を確認しています。さっさと確認してよ、もう我慢できない!
次の瞬間、私の口から出た言葉は「あー、涼しい!ここからスーッとクーラーの風が出て来て気持ちいい!」でした。自分でも驚きました。彼女もハッと我に返ったといった感じで、「そうですかー! きょう、暑いですよね。すみません。お待たせしちゃって」という言葉が返ってきました。視線が合いました。声にも優しさが感じられます。要領は悪いけれど、誠実に仕事をしている人なのだと思いました。「コロナのせいで、大変だよね。頑張ってね」と言うと、「ありがとうございます。頑張ります!」私は嬉しくなりました。言葉ひとつで、気持ちが前向きになり、怒りさえ楽しい気分に変わるということを実感しました。
そのまま近くの雑木林のほうまで散歩することにしました。小さなお子さんを連れた母親が向こうからやってきます。お兄ちゃんと妹です。小さな女の子がマスクをしていることに驚いたので、遠くから声をかけました。「ちゃんとマスクして偉いね。いくつ?」と尋ねたら、指を2本立てていました。お兄ちゃんがマスクしているのを見て真似するようになったと母親が話してくれました。保育園が休みで仕事ができず、毎日大騒ぎする子どもたちとずっと一緒で疲れちゃって…と苦笑いしていました。雑木林の中で束の間のお喋り。私たちの周りを二人のお子さんがぐるぐる回っていました。「子どもの笑顔は周りの人を幸せにしてくれるでしょう。今私も幸せ」と言ったら、「そうですね。今を楽しみます」と、素敵な笑顔を見せてくれました。会話は生きるエネルギーですね。
未知のウイルスと共に生きなければならない社会、人とは距離を取るようにしなければならないけれど、心の距離は近いまま生きていきたいですね。