これまでは、“先生”と呼ばれることが多くありました。講演をしたり朗読や話し方講座で教えたりしているときは“先生”です。先生を務めるためには、質問に答えられなかったら恥ずかしいので勉強をしなければなりません。皆が「なるほど!」と感心してくれたり、感動してくれたりする話をしなければなりません。情報のアンテナを張り巡らせ、感性も磨かなければなりません。大変だと思っていましたが、いつの間にか“先生“という呼び方に慣れました。
「ばーば!」。2歳になる孫に呼ばれると疲れも吹き飛びます。孫は心の癒しです。ママが仕事の時は、孫を我が家で1泊預かります。ハンバーグやカレーなど孫の好物を作り、お風呂に入れて一緒に寝ます。2歳の孫との会話は声が1オクターブ高くなっていると、夫に指摘されます。“ばーば”のときは楽しくて仕方ありませんが、孫が帰ると疲れがどっと出ます。
孫を見ていると、亡くなった母を思い出します。私は出産してからNHKのレギュラー番組の仕事を始めたので、平日は子どもの世話は母任せでした。時には掃除や洗濯、夕飯まで作ってくれました。疲れるだろうに、母はじつに楽しそうで若々しくなっていきました。地域の自主保育サークル活動にも参加してくれて、私が帰宅すると、子連れで遊びに来てくれた私の友人とお茶会をしていることもありました。「今が一番幸せ」という言葉に甘えて、私が番組を担当していた8年もの間世話になりました。母の発想の面白さ、家事の手際の良さ、社交性にあふれた人柄など、知らなかった一面をたくさん知ることができました。母はそれまで嫁、妻、母という役割でしたが、我が家に通うことにより、孫の世話をする“おばあちゃん”が加わり、さらに“私の代わり”に近所づきあいやママ友づきあいまでしてくれました。「役割が人を育む、成長させる」と言われます。持ち前のバイタリティーと責任感で、母は人としての魅力を増していったのだと思います。
さて、“理事長”という役割をいただいた私はどうかというと、財団をぐいぐい引っ張っていく力はありませんが、皆が生きがいを持って働ける職場にしたい、皆を守っていかなくては!という気持ちが、いつの間にか自分のなかに根を張っていることに気が付きました。それは、“母親”の心境に似ています。頼りないと感じている職員も多いと思いますが、私なりに笑顔で皆に声をかけ続けていこうと思っています。“理事長”という役割が、どんな私を作ってくれるのでしょうか……。肝っ玉母さんかなぁ。